この記事でわかること
・各電子部品のディレーティング率(係数)
・温度ディレーティング曲線の見方と作り方
・ディレーティングを考慮した部品配置
回路設計において、回路で発生する電圧や電流より定格が大きい部品を選定しますが、
どの程度大きくするか余裕度を持たせることをディレーティングと言います。
また、電源装置などの取扱説明書には温度ディレーティング曲線が掲載され、
周囲温度に応じて、使用できる電力や出力電流が低下することを示しています。
本記事では電子部品のディレーティングをどれくらいにするかの目安を紹介し、
温度ディレーティング曲線の見方と作り方について解説します。
<注意点>
本記事で紹介する各部品のディレーティング率や上限温度は参考値であり、
電子部品の性能や回路の動作を保証するものではありません。
ここに記載した各種設定値が適切で無い場合がある為、
使用の際は電子部品のデータシートを必ず確認の上、
回路設計への適用については自己責任でお願いします。
部品ディレーティングと温度ディレーティング
本記事では便宜上、ディレーティングを以下の2つに分けて説明します。
・部品ディレーティング
電子部品を使用する際、故障を低減し、寿命を長くするため、
最大定格(電圧、電流など)に対し、使用時に余裕を持たせることを指します。

この時の余裕度(最大定格に対して、何%以下で使用するか)は、
ディレーティング率やディレーティング係数と呼ばれ、
回路動作時の電圧や電流について、算出または測定した値に対し、
予め設定したディレーティング率以下となる最大定格を持つ部品を選定します。
・温度ディレーティング
電子部品を最高使用温度以下で使用するためには、その部品の自己発熱以外に
周辺部品の発熱による影響も考慮に入れる必要があり、
装置の周囲温度や取付方向に応じて、出力電力や電流を制限することを指します。
電力や電流等の制限範囲を示す図はディレーティング曲線や負荷軽減曲線と呼ばれ、
装置動作時の各部品の温度測定結果を基に作成します。

装置を使用する際は曲線の範囲内に収まるようにする必要があり、
例えば、上図のディレーティング曲線が定格出力50Wの電源だとした場合、
負荷率100%となる出力50Wで使えるのは周囲温度45℃までとなり、
60℃で使用できるのは負荷率75%の出力37.5Wになります。
部品ディレーティング率(参考値)一覧
各部品のディレーティング率を以下に示しますが、あくまで参考程度とし、
メーカーでディレーティング率が定められている場合は、それに従って下さい。
また、ここでは温度ディレーティングを考慮に入れていません。
そのため、最大定格を使用温度によって軽減する必要がある部品も存在するため、
データシート等で確認して下さい。
・抵抗
電圧:定格電圧の80%以下(注1)
注1:P=V2/Rを変形し、V=√(定格電力×公称抵抗値) で求めた電圧値が、
データシートの最高使用電圧よりも低ければ、そちらを定格電圧とします。
電力:定格電力の50%以下(注2)
注2:下図に示す様に周囲温度によって定格電力が軽減されるため、
上記よりもディレーティング率を下げる場合があります。

抵抗のディレーティングについては下記記事で解説しています。

・アルミ電解コンデンサ
電圧:定格電圧の85%以下
リップル電流:定格リップル電流の80%以下(注3)
注3:リップル電流は周波数によって変化するため、
一般的に、入力平滑用コンデンサは商用電源を全波整流した周波数120Hz、
出力平滑用はスイッチング電源で主に使用される100kHz時の値を記載しています。
このため、それ以外の周波数で使用する場合はデータシートに記載された
周波数補正係数を使って定格リップル電流を補正します。
リップル電流の測定方法については下記記事で解説しています。

・フィルムコンデンサ
電圧:定格電圧の90%以下(注4)
電流:定格電流の80%以下
注4:定格電圧はAC定格とDC定格があり、どちらか一方が規定されているのが多いです。
DC定格のみ記載された製品もAC回路でも使用できますが、使用できる電圧が低下します。
また、電源の一次側回路に用いられるXコンデンサやYコンデンサ(※)は、
IECやUL等の安全規格取得品でないと使用できません。
※XコンデンサはAC電源ラインのL相ーN相間に接続してノーマルモードノイズを、
YコンデンサはAC電源ラインとGND間は接続してコモンモードノイズを除去します。

・セラミックコンデンサ
電圧:定格電圧の85%以下
高誘電率系セラミックコンデンサの場合、DCバイアス特性により、
印加するDC電圧が高いほど静電容量が低下するため、
容量低下を避けたい場合は定格電圧の高いものや、温度補償タイプを使用します。
(但し、温度補償タイプは静電容量が小さい)
セラミックコンデンサについては下記記事で解説しています。

・ダイオード
逆電圧:最大定格の85%以下
順電流:最大定格の80%以下
ダイオードにはショットキーやファストリカバリ等の様々な種類があり、
その種類と用途によっては、上記以外の要素も選定の際に必要となります。
ダイオードの選定方法については下記記事で解説しています。

・ツェナーダイオード
許容損失:最大定格の80%以下
他のダイオードと違い、定電圧源としての使い方がメインとなるため、
消費する電力についてディレーティングを行います。
ツェナーダイオードの使い方については下記記事で解説しています。

・LED
順電流:最大定格の75%以下
許容損失:最大定格の90%以下
LEDもツェナーダイオードと同様、電力消費に注意して選定する必要があります。
LEDについては下記記事で解説しています。

・トランジスタ、FET
電圧:最大定格の85%以下
電流:最大定格の80%以下
許容損失:最大定格の80%以下
パワーMOSFETの場合、上記以外にも安全動作領域(SOA)と呼ばれる制約条件があり、
ドレイン電圧とドレイン電流の組合せにおいて、データシート記載のSOAを一瞬でも超えてはいけません。

SOAについては下記記事で解説しています。

・フォトカプラ
電圧:最大コレクタ・エミッタ間電圧の85%以下
電流:最大コレクタ電流の45%以下
電力:最大コレクタ損失の90%以下
フォトカプラの使い方については下記記事で解説しています。

・ヒューズ
電流:定格電流の70%以下
ヒューズのディレーティングの詳細は下記記事で解説しています。

・スイッチ
電流:定格電流の80%以下(※注5)
※注5:データシートの定格電流は突入電流が流れない抵抗負荷の使用を前提としています。
突入電流が大きいコイルなどの誘導性負荷をスイッチでON/OFFする場合、
ディレーティング率は更に小さくする必要があります。
詳細については下記記事で解説しています。

温度ディレーティング曲線の見方と作り方
ここではTDKラムダ製の50Wスイッチング電源HWS50Aを例にして説明します。

取扱説明書に記載されている温度ディレーティング曲線は以下になります。
この曲線の見方ですが、電源の周囲温度に応じて、
曲線の内側に入る負荷率(出力電流)以下で使用しなくてはなりません。

また、この製品の場合、図に示す取付方向によって曲線が異なるため、
電源の設置方向で使用可能な負荷率が変わってきます。
例えば、DC5V出力タイプ(HWS50A-5)の場合、全ての取付方向において
負荷100%(出力電流10A)まで使えるのは周囲温度が45℃までで、
取付方向がC方向だと50℃では負荷86%(出力電流8.6A)に低下します。
他の取付方向でも負荷100%は50℃までとなり、
70℃ではA方向で40%(出力電流4A)、BとD方向では30%(出力電流3A)になります。
このように取付方向によってディレーティング曲線が異なる理由ですが、
各取付方向における主要部品の温度上昇値を見るとわかります。

ここに示す各部品の測定値ΔTは、周囲温度との温度差であり、
TDKラムダのHPにあるHWS50Aの信頼データから入手できます。
但し、上限温度は公表されていない為、筆者が推測した値です。
(上限温度の推測値は後述する方法を基に決めました)
温度マージンは「上限温度ー測定値」から算出しており、
これを見ると、LED(PD51)のC方向における温度マージンが最も小さく、
周囲温度が50℃だと上限温度を超えてしまう為、C方向のみ45℃で測定されています。
C方向でのLED温度が高い理由ですが、LEDは端子台の横(写真の右下)にあるので、
端子台を上側にして取付すると、トランス等の高熱部品の熱が上昇して、
LEDに熱が伝わってしまうためです。
このように、各部品の熱は上方に伝わっていくため、
取付方向によって、上側に上限温度の低い部品があると、
その熱の影響を受けて、装置全体の負荷率を低下させてしまいます。
<温度ディレーティング曲線の作り方>
下記に示すのは、ある装置(HWS50Aではありません)において、
負荷率50%から10%づつ、100%まで上げた時の各部品の温度を測定したものです。

温度の測定には熱電対を使用し、装置外の周囲温度も同時に測定します。
この際、空調等の風の影響を受けると温度が安定しないので、
装置に対して十分大きな箱(段ボール箱など)で囲います。

このような対策をしても、周囲温度Taは各負荷率の測定毎に多少変動しますが、
Taに対する部品の温度上昇値ΔTの測定が目的なので問題ありません。
測定は負荷率が低い順から行い、各部品温度Tの上昇が飽和したら、
その時の周囲温度Taと共に記録して、各部品の温度上昇分ΔTを求めます。
ΔT=T-Ta
この温度測定を負荷率を10%づつ上げながら行っていきます。
次に、各部品の上限温度をデータシートの最高使用温度を基に設定します。
※上限温度の目安については後述します。
設定した上限温度と測定結果ΔTを基に、周囲温度Taにおける温度マージンを
各部品毎に算出します。
温度マージン=上限温度ー(Ta+ΔT)
この例では、周囲温度Taが70℃の場合、
負荷率50%では全部品に温度マージンがあるのでOKですが、
負荷率を60%に上げると温度マージンがマイナスの部品が出てくるためNGとなります。
この時、Taを60℃に下げればOKになりますが、欄外に68.0℃とあるのは、
温度マージンが最小(8℃)となる部品がヒューズ(F1)なので、
負荷率60%の場合、Taが68.0℃(=60+8)まで動作できます。

このようにして、各負荷率毎に動作可能なTaを求めたものが上図の赤点になり、
温度ディレーティング曲線はこの赤点よりも内側になるように設定することで
多少の余裕を持たせます。
上限温度の目安(参考値)について
各部品の上限温度の目安を以下に示しますが、あくまで参考程度として下さい。
・IC、ダイオード、トランジスタ、FET
Tj(接合温度)の85%
一般的な半導体のTjは150℃なので、上限温度は150×0.85=127.5℃が多いですが、
サイリスタやトライアックのTjは125℃品が多いため、
上限温度が125×0.85=106.25℃と低くなるので注意します。
・LED
最高周囲温度の90%
製品によっては周囲温度によって順方向電流を軽減する必要があるので、データシートで確認します。
・フォトカプラ
最高周囲温度の80%
製品によっては周囲温度によって入力順電流やコレクタ損失を軽減する必要があので、データシートで確認します。

・ヒューズ
最高周囲温度の100%
ヒューズは最高使用温度が80℃程度の低い製品が多く、
装置の温度ディレーティング曲線に影響を与えるので注意が必要です。
・コンデンサ
最高周囲温度の100%
但し、電解コンデンサは部品ディレーティングで説明したように部品温度上昇による寿命の低減があり、
装置の寿命に影響を与えるので注意が必要です。
・抵抗
上限温度:110℃
部品ディレーティングで前述した通り、周囲温度で定格電力が低減されますが、
ここでの110℃は抵抗自体の使用可能温度ではなく、
抵抗が実装された基板温度の上限(130℃程度)を考慮した値としています。
(一般的なガラスエポキシ基板(FR-4)を想定)
温度ディレーティングを考慮した部品配置
周囲温度による電気的性能(出力電力や電流)への影響を低減するためには、
動作周囲温度の低い部品(以下、低温部品と記す)をどこに配置するかが重要になります。
一般的に低温部品は以下のものがあります。
・ヒューズ
使用温度が80℃と低いものが多い。
・サイリスタ、トライアック
ICやFET等の接合温度は通常150℃なのに対し、これらの部品は125℃品が多い。
・オペアンプ
動作周囲温度が80℃と低いものが多い。
・電解コンデンサ
周囲温度上昇でコンデンサの寿命が短くなることから、
電解コンデンサ寿命ー周囲温度特性グラフが提示されている製品もあります。

また、一般的に電解コンデンサは直径が小さい程、定格寿命が短いので
周囲温度が高くなる所には小さいコンデンサは避けます。
<部品配置について>
低温部品の配置には以下の点に留意します。
・抵抗等の発熱部品から離して配置する
・製品の取付方向に注意する
低温部品から発熱部品を遠ざけても、
製品の取付方向によって低温部品の周囲温度に大きく影響します。
下図左側の様に基板を水平に配置する場合は、周囲の熱は上に流れるので影響は少ないです。

しかし、基板を垂直に配置する場合は、
低温部品の位置が上だと、それより下の部品の熱が伝わってきます。
特に、長手方向に縦置きした場合に低温部品が上にあると
製品内部で、最も高い温度に低温部品を晒すことになります。
以上のことから、基板内での低温部品の配置を決める際は、
製品の取付方向と熱の流れも考慮するようにします。
