FETのSOA(安全動作領域)の測定とディレーティング法 | アナデジ太郎の回路設計

FETのSOA(安全動作領域)の測定とディレーティング法

回路設計

この記事でわかること

・安全動作領域の測定方法がわかる
・安全動作領域のディレーティング方法
・添付エクセルシートでSOA判定する

パワーMOSFETのデータシートには、
安全動作領域(SOA)が記載されています。
(SOA:Safety Operating Area)

ASO(Area of Safety Operation)とも呼ばれています。

FET使用の際は、このSOAを一瞬でも超えてはいけません。

本記事では、設計した回路のFETがSOAの範囲内か判定する方法を解説します。

本サイトからダウンロードできるExcelシートを用いることで、
測定データのSOA判定を簡単に確認できます。

SOAのディレーティング方法

データシートに記載されているSOAのグラフは、
ケース温度Tc=25℃の場合です。

このため、『温度によってディレーティングする必要がある』と記載されています。

まずは、FETを動作させ、測定したケース温度Tcに対して、
SOAをディレーティングします。

温度測定については、熱電対が望ましいですが、
目安としてならば、放射温度計を使うのが簡単です。

測定の結果、ケース温度Tc=100℃における
パルス幅1msラインのディレーティングを行う場合を例にして説明します。

電流制限領域のディレーティング

電流制限領域はドレイン電流の最大定格で決まります。
25℃においては、データシートに記載(IDP=36A)されています。
(東芝製パワーMOSFET TK9A60Dより)

先程のSOAのグラフでもIDmax(パルス)=36Aになっています。

この最大ドレイン電流をディレーティングするには、
まず、この36Aがどのようにして決定しているか理解する必要があります。

パルス時のドレイン電流ID過渡熱抵抗rthから求めることができます。

過渡熱抵抗rthとは、パルス印加時に発生する熱を電力で割った値です。
(つまり、1W印加したら何℃上がるかを示す)

過渡熱抵抗 rthは下記に示す関係になっています。
Tch=rth(ch-c)×P+Tc

Tch:チャネル温度(ジャンクション温度Tjとも呼ばれる)
P:消費電力

Tc:ケース温度

過渡熱抵抗のグラフはrth/Rth(ch-c)で表されています。
ここで、Rth(ch-c)はチャネル・ケース間熱抵抗です。

データシートより
Rth(ch-c)=2.78  [℃/W]

この値を先程のTchの式に代入すると、
Tch=Rth(ch-c) × P+Tc

Tch=150℃、Tc=25℃なので、
150=2.78 × P+25
P ≒ 45 [W]

となり、データシート記載の許容損失PDと一致するので、
Rth(ch-c)は直流動作時の過渡熱抵抗の値とも言えます。

過渡熱抵抗rthから、パルス動作時の最大損失Pを求めます。

rth-twグラフより、単発パルスtw=1msの時、
rth/Rth(ch-c)= 0.05

よって過渡熱抵抗 rth(ch-c) は、
rth(ch-c)=2.78 × 0.05=0.139 [℃/W]

先程と同様にTchの式に代入すると、
Tch = rth(ch-c) × P+Tc
150=0.139 × P+25
P ≒ 900 [W]

つまり、パルス1ms時は最大損失が900Wになります。

オン抵抗Ron-Tcグラフより
25℃の時、Ron=0.7Ωなので、
IDmax= (P/R)0.5 = (900/0.7)0.5 ≒ 36 [A]

となり、データシートの最大ドレイン電流(パルス) IDPの値と一致します。

Tc=100℃の時は、グラフから、Ron=1.15Ωなので、
IDmax= (P/R)0.5 = (900/1.15)0.5 ≒ 28 [A]

以上の結果から、電流制限領域のディレーティングは、
ID=36A→28Aに下げます。



熱制限領域のディレーティング

この領域は、先程求めたパルス1ms時の最大損失Pで決定されます。

Tc=25℃時は最大損失P=900Wなので、
VDS=25V時のドレイン電流IDは、
ID=900W/25V=36 [A]

50Vでは、
ID=900W/50V=18 [A]
となり、
(VDS,ID)=(25V,36A)、(50V,18A) を結ぶ直線が、
Tc=25℃でのSOAのグラフと一致します。

この直線を同じ傾きのまま、下に平行移動させます。

Tc=100℃の場合の最大損失は、
Tch = rth(ch-c) × P+Tc を用いて、
150℃=0.139 × P+100℃
P=360 [W]

先程、ディレーティングした電流制限領域 ID=28Aの時のVDS
VDS=360W/28A=12.8 [V]

熱制限領域が終わるのは、Tc=25℃と同じVDS=50Vなので、
ID=360W/50V=7.2 [A]

以上から、熱制限領域のディレーティングは、
(VDS, ID) = (12.8V, 28A)、(50V, 7.2A) を結ぶ直線になります。

二次降伏領域のディレーティング

この領域は、高温によりFETの抵抗成分が急減するので、
損失を抑えるためにドレイン電流を制限する必要がある事から、
グラフの傾きが熱制限領域より急になっています。

二次降伏領域のディレーティングは、
先程求めた熱制限領域に合わせて平行移動します。

まず、Tc=25℃時の二次降伏領域の傾きをグラフから求めます。

VDS=50Vの時、ID=18 [A]
VDS=600Vの時、ID=0.02 [A]

を読み取ります。

両対数グラフなので、傾きaは以下になります。
a=(log(0.02)-log(18))/(log(600)-log(50))
=log(0.02/18)/log(600/50)
=log(0.001)/log(12)
=-2.954/1.079
=-2.737

この傾きaを持つ直線が、
100℃で熱制限領域をディレーティングした点、
(VDS, ID)=(50V, 7.2A) を通るようにします。

両対数グラフの直線は以下の式で表すことができます。
log ID=a× log VDS + log b  (bは切片)

上の式は次のように変形できます。
log ID = log(VDSa ×b)
= log(b × VDSa )

両辺の対数を取ると
ID=b × VDSa
となります。

傾きaはわかっているので、bも求まります。
7.2A=b × (50V)-2.737
b=7.2A/[(50V)-2.737 ]

最大定格電圧600Vの時のID
ID=b × VDSa
=7.2A/[(50V)-2.737] × [(600V)-2.737]
=7.2A×(600/50)-2.737
=0.008 [A]

以上から、二次降伏領域のディレーティングは、
(VDS, ID)=(50V, 7.2A)、(600V, 0.008A)を通る直線になります。

電圧制限領域は、ドレイン・ソース間の耐圧VDSSで決まる領域で、
データシートのドレイン電圧の最大定格の値600Vになります。
この値は温度による影響を受けないので、そのままです。



安全動作領域の測定方法

安全動作領域内で動作しているか判定するために
ドレイン電圧VDS、ドレイン電流IDをオシロスコープで測定します。

この時、測定データをCSV形式でダウンロードします。
(ダウンロード方法は後で説明)

ドレイン電流IDの測定は電流プローブを用いて下図のように行います。

<注意>
FETを基板から外す時は基板を痛めないように注意が必要です。

特にドレインDと、ソースS端子は、パワー回路に接続されているので、
パターンが太く、半田コテを当てても熱が上がらず半田が溶けにくい為、
無理に取ろうとすると、スルーホールやパッドごと取れてしまいます。

安全確実に部品を外すための道具については、
下記記事で紹介しています

測定したVDS-ID波形の例を示します。

注目するのは、VDSとIDが共に大きいターンオフの区間です。

この部分の測定データを細かく取る必要があるため、
図のようにターンオフ部分を拡大して測定します。

SOAのパルス幅は、このターンオフ期間120nsになります。

ここで、『パルス幅はゲートON期間の9usなのでは?』
と思うかもしれません。

それは、SOAで言う所のパルス幅とは、
ドレイン電流IDのパルス幅を意味します。

つまり、IDが図のようなtw=1msの矩形波だとしたら、
電力量Wh=P × T=VDS × ID × 1ms の時に
パルス幅1msのSOAグラフを超えてはいけないという事です。

実際のスイッチング波形では、IDが矩形波にはならないので、
VDSとIDが共に大きい期間であるターンオフ時が最も電力量が大きい事から
ターンオフの区間をパルス幅としてします。

<補足:オシロの波形データをCSV形式で取り込む方法>
テクトロニクス製の場合、
[波形の保存]→[ファイル]→[スプレッドシート・ファイル・フォーマット(.CSV)]を選択

保存するchを指定するために
[ch〇を指定したファイルに保存]を選択すると、
CSVファイル形式で測定データが保存されます。

※この時、時間軸の分解能(サンプリング・レート)を上げ過ぎると、
データ量が膨大になり、エクセルでの処理に時間がかかります。
(データ数は1chあたり1万個以内が適切)

エクセルによるSOA判定方法

計測したVDSとIDの測定データを結合して、エクセルで両対数グラフを作成します。

下記にSOA用の両対数グラフのエクセルシートがあるので活用下さい。

※ダウンロード時のファイル名は「58fa06ddb247e99241022e3da78c92bd.xlsx」になっています。

次の手順でグラフを作成します。

①先程ディレーティングで求めたSOAグラフから、SOA領域を読み取り、
 エクセルシートの安全動作領域(SOA)の項目に入力する。

②測定したVDS、IDのデータを、「測定データ」の項目に入力する
 ※このシートではデータ数は1万個まで入力可能です。

③対数グラフではゼロ以下の値を扱えないため、
 エクセルシートの「負データ削除」で、
 ゼロ以下のデータを限りなくゼロに近い正の値(ここでは0.001)にしています。

④入力したSOA領域と、測定データが表示されたグラフが表示されます。
 SOA領域内に測定データが入っていればOKです。

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