【定電圧回路と保護回路の設計】ツェナーダイオードの使い方

回路設計



この記事でわかること

・ツェナーダイオード(ZD)の使い方&選び方
・ZDを使った定電圧回路の設計
・ZDによる過電圧保護の方法

ダイオードは大別すると、整流用と定電圧用に分かれます。

整流用は交流電圧を直流電圧に変換したり、
電流の逆流を防ぐために使用されます。

整流ダイオードについては下記記事で解説しています。

定電圧用はツェナーダイオードと呼ばれ、
一定の電圧を維持したり、過電圧を防ぐために使用されます。

整流ダイオードがアノード(A)からカソード(K)に
電流が流れる順方向で使用するのに対し、
ツェナーダイオードは逆方向で使用するため、使い方が異なります。

本記事では、ツェナーダイオードの選び方&使い方について解説します。

ツェナーダイオードの使い方とディレーティング

ツェナーダイオード(以下、ZDと記す)は、
カソード(K)を+、アノード(A)をーに接続した時(逆電圧を印加)、
KA間の電圧(ツェナー電圧Vzと呼ぶ)が一定の電圧になります。

但し、定電圧を維持するには、
ZDに一定値以上の逆電流(ツェナー電流Izと呼ぶ)を流す必要があります。

理想的なZDなら、赤色で示す特性の様に、Izに関係なくVzが一定なのですが、
実際には、Izが変化するとVzが変動します。

この時、Vzの変化の割合 Zz=ΔVz/ΔIz を動作インピーダンス(動作抵抗)と言います。

このZzは、VzーIz特性でのグラフの傾きを表します。
 グラフの傾き:穏(Izの変化でVzが大きく変動) → Zz大
 グラフの傾き:急(Izが変化してもVzの変動が小) → Zz小

つまり、定電圧にするには、Zzが小さい領域で使用する必要があり、
そのためには、ある程度のIzが必要
という訳です。

具体的な動作抵抗の値について、
ローム製12VツェナーダイオードUDZV12Bを例にして説明します。

データシートにあるZzーIz特性を見ると、
Iz=0.1mA でZz=5kΩ、Iz=1mA でZz=20Ω です。

これは、次の事を意味します。
Iz=0.1mA→0.2mAで、Vzが0.1mA×5kΩ=0.5V 増加
Iz=2.0mA→2.1mAで、Vzが0.1mA×20Ω=2mV 増加

このように、同じ0.1mAの電流変化でも、電圧の変動量が250倍も違ってきます。

従って、Izをできるだけ多く流した方が、Vzの変動を小さくできますが、
ZDの損失(Vz×Iz)が増えるため、許容損失を上回らないように注意します。

UDZV12Bのデータシートには許容損失Pd=200mWとありますが、
これは周囲温度Ta=25℃環境での値です。
ここでは、周囲温度60℃の時の許容損失を求めます。

PdーTa曲線を見ると、60℃では許容損失が71%に低減するので、
 200mW×0.71=142mW

ディレーティング(余裕度)を80%とすると、
 Pd=142mW×0.8=113.6mW
 Iz=Pd/Vz=113.6mW/12V≒9.4mA

となり、ZDに流す電流は9.4mA以内にします。

ツェナーダイオードの定電圧動作

ツェナー電圧Vzの変動を抑えるには、
一定値以上のツェナー電流Izを流す必要がありますが、
そのIzを決める要素は以下の2点です。
 ・ZDに直列接続した抵抗R1
 ・定電圧回路からの出力電流Iout

抵抗値と出力電流が、定電圧動作に与える影響について、
先ほどの12V ZD (UDZV12B)を使った
DC24VからDC12Vを生成する定電圧回路を例にして説明します。

①出力電流がゼロ(無負荷)の場合
定電圧回路の出力に何も接続されていないので、
R1に流れる電流は全てZDに流れます。

R1には12Vが印加されるので、R1=2.4kΩにした場合、
Iz=12V/2.4kΩ=5mA 流れます。

この時の動作抵抗Zzは、先ほどのZzーIz特性グラフより20Ωなので、
入力電圧の変動で、仮にIzが0.1mA変化したとしても
出力電圧の変動は2mVと小さく、一定電圧を維持できます。

②出力電流を3mA流した場合
定電圧回路の出力に負荷抵抗RL=4kΩを接続すると、
出力電流Iout
Iout=12V/4kΩ=3mA  流れます。

これにより、R1に流れる5mAのうち、残りの2mAがIzとしてZDに流れます。

Izは5mA→2mAに減りましたが、
ZzーIz特性グラフを見ると、Vzは12Vのままです。

また、ZzーIz特性グラフより、Zzも20Ωのままなので、
Izが多少変化しても、出力電圧12Vの変動は小さいです。

③出力電流を4.9mA流した場合
負荷抵抗RLを2.45kΩにすると、
出力電流Iout
Iout=12V/2.45kΩ=4.9mA 流れます。

この時、Izは0.1mAまで減少します。
それでもVzは、ZzーIz特性グラフより、12Vを維持しています。

しかし、Zzは5kΩと大きくなり、 
入力電圧や、出力電流の変動によって、Izが0.1mA変化したら
出力電圧は0.5Vも変化する為、電圧の変動が大きくなります。

④出力電流を8mA流した場合
出力電流が5mAを超えると、R1での電圧降下は
2.4kΩ×8mA=19.2V となり、12Vを上回ります。

これによって、出力電圧は
24Vー19.2V=4.8V に低下してしまいます。

R1に流れる8mAは全て出力電流になるため、
ZDには電流を流す事ができません。

つまり、ZDが付いていない状態と同じになり
24VをR1とRLで分圧しているだけの回路になります。



ツェナーダイオードの選び方

ZDの選定にあたり、定電圧回路の安定性に影響する動作抵抗Zzですが、
Izだけでなく、ツェナー電圧Vzの大きさによっても、値が違ってきます。

Vz毎の動作抵抗を見ると、ローム製UDZVシリーズの場合、
Vz=7.5~12Vの時のZzが30Ωと最も小さく、
ぞれよりもVzが高くても、低くてもZzが大きくなります。

このため、必要とする電圧値のZDを使うよりも、
Zzの小さい7.5~12VのZDを複数接続した方が
定電圧回路の変動を小さくできる場合があります。

24V定電圧回路を例にすると、
24V ZDを使用するのと、12V ZDを2個使う場合とで比較すると、
 24V ZD 1個:Zz=120Ω
 12V ZD 2個:Zz=30Ω×2個=60Ω

12V用は2個使うのでZzが2倍になりますが、
24V用よりも値が小さいので、電圧変動も小さくなります。

また、温度も出力電圧に影響を与えます。
ツェナー電圧温度係数Yzは、
温度が1℃上がった時のツェナー電圧Vzの上昇度を示しており、

この特性グラフでは、Vzの変化の割合を示す(%/℃)と、
Vzの変化した電圧値を示す(mV/℃)の2つが記載されています。

このグラフより、ツェナー電圧が低い方が温度係数が小さくなりますが、
5V以下になると、負の温度係数となり、温度上昇でVzが低下
します。

これは、5V付近を境にして、
ZDが一定電圧を維持する仕組みである降伏現象(※1)の種類が異なるためです。

※1:逆電圧が一定値(Vz)以上になると逆電流(Iz)が急増する現象
  5V以上は正の温度係数を持つアバランシェ降伏、
  5V以下は負の温度係数のツェナー降伏が発生します。

従って、温度変動が大きい環境で使用する場合は、
Vzが5V付近のZDを複数個直列に繋ぎ合わせ、
必要な電圧にすることで、出力電圧の変動を抑えることができます。

ツェナーダイオードを使った定電圧回路

12V ZD (UDZV12B)を使い、電源電圧24Vから、
出力電圧12V、出力電流10mAの定電圧回路を例に説明します。

まず、動作抵抗Zzをできるだけ小さくするため、
Izが5mA程度流れるように、R1を決めます。

R1は出力電流10mAと、ZDに流す5mAの計15mAを流すため、
R1=12V/15mA=800Ω
実際にある抵抗値(E24系列)で直近の820Ωにします。

抵抗値が820Ωの場合、R1に流れる電流Iin
Iin=12V/820Ω≒14.6mA

ZDに流れる電流Izは
Iz=14.6mAー10mA=4.6mA
となり、動作抵抗特性グラフより、Zz=20Ωになります。

入力電圧や出力電流の変動により、
Izが0.1mA変化した場合の出力電圧の変動ΔVzは
ΔVz=ΔIz×Zz=0.1mA×20Ω=2mV
と小さく、一定電圧を維持できます。

次に、ZDの損失は
Pz=Vz×Iz=12V×4.6mA=55.2mW
となり、先ほど求めた許容損失
(周囲温度60℃、ディレーティング80%)
113.6mWより低いのでOKです。

最後に、R1の消費電力(※1)を求めます。
P=R1×Iin2=820Ω×(14.6mA)2=175mW

使用する抵抗の定格電力は、ディレーティングを50%とすると、
175mW/0.5=350mW
抵抗の定格電力のラインナップより、500mW (1/2 W)を選択します。

※1:ZDでは損失、抵抗では消費電力と、製品の種類によって、
  データシートに記載されている名称が異なりますが、同じ意味です。
  本ブログでは、2つの用語を次のようなイメージで使い分けています。

  損失:部品の内部ロスという観点で、回路調整により減らしたいという場合
  消費電力:部品を使用する観点で、安全動作を保証するために、その値を守る場合

この定電圧回路で注意する点は、
出力電流の下限は5.2mAまでという事です。

その理由は、R1に流れる電流14.6mAのうちZDに流れる電流Izを
Iz=IinーIout=14.6mAー5.2mA=9.4mA以内にしないと、
ZDの許容損失113.6mWを超えてしまうからです。



ツェナーダイオードを用いた電圧調整回路

ICへの電源供給やFETのゲート電圧など、
ある程度の範囲内の電圧で良ければ、
ZDで電圧降下させて使用する
方法もあります。

ICへの電源電圧調整

ICの電源電圧範囲が10~15Vだとした場合、
24V電源からVz=12VのZDで、12Vだけ電圧降下させ、
残りの12VをICに電源供給することができます。

この場合、ZDに流れる電流Izが全てICへの入力電流となるため、
先ほどの定電圧回路にあった抵抗R1は不要なので、
その分損失を低減することができます。

但し、ZDの許容損失を超えないようにするため、
ICへの入力電流には制限があります。

UDZV12Bを使用した場合、
先ほど求めたIzの上限9.4mAがICへの入力電流の最大値になります。

そして、入力電圧24Vが変動すると、
その変動分がそのままICの入力電圧の変動になるので、
入力電圧が変動しても、ICの電源電圧範囲を超えない場合の使用に限られます。

ゲート電圧の調整

プッシュプル回路を使ったFETのゲート制御において、
回路の電源電圧が24Vの場合、出力されるゲート信号電圧が24Vになります。

FETのゲート電圧の最大定格が20Vの場合、
そのままゲート信号を入力できないので、
12V ZDを使って12V分低下させてからFETに入力します。

この時、ZDに流れる電流Izは、
Iz=(24ー12)V/(RG+RGS)Ω
となります。

ここで、ゲート抵抗RGはゲート電圧の立上り・立下り速度を調整するため、
数十Ω程度の小さい値になるので、
Izは、ほぼゲートソース間抵抗RGSで決まります。

ここでは、RGS=10kΩにしてIzを1.2mAにすることで、
ZDに十分電流を流して、Vzを安定化させています。

ZDに並列接続したCは、ゲートON/OFF時にピーク電流を瞬間的に流すことで、
ゲート電圧の立上り・立下りを素早くしています。

ゲート抵抗の決め方については下記記事で解説しています。

プッシュプル回路については下記記事で解説しています。

トランジスタを利用したZD応用回路

パワーツェナー回路

メーカーにもよりますが、ZDの殆どは小信号用であり、
許容損失Pdは大きくても1W程度です。

Pd=1Wの場合、ツェナー電圧Vzが5Vなら、
Izは200mAまで流せますが、24Vだと約40mAとなり、
Vzが高くなると流せる電流Izが少なくなります。

ZDに流せる電流を増やしたい場合、
図のようにトランジスタと組み合わせたパワーツェナー回路により、
Izを大きくすることができます。

この回路の仕組みですが、
NPNトランジスタのベース・エミッタ間は構造上、PN接合ダイオードと同じなので、
ZDと整流ダイオードの直列接続になります。

このダイオードの順方向電圧VFは、
ベース・エミッタ間飽和電圧VGS(sat)として定義され、
一般的なトランジスタの場合、0.6V程度です。

従って、このパワーツェナー回路のツェナー電圧は、
Vz=12V+0.6V=12.6V
となります。

この回路に印加する電圧が12.6V以下だと、
ZDに電流が流れないので、
ベース電流もゼロとなり、トランジスタはONしません。

電圧が12.6Vを超えると、
ZDからベースに電流が流れ込むことで、
トランジスタがONします。

ONしたことで、Vce間電圧が低下すると、
ZDに電流が流れなくなるのでOFFとなり、
再度ZDに電流が流れてONという状態が繰り返されることで、
ZDの電圧が12Vになるようにトランジスタに流れる電流が調整されます。

この時、トランジスタに流すことができる電流値Icは
 Ic=hfe×Iz  
になります。

hfeはトランジスタの直流電流増幅率なので、
Izをhfe倍することができます。

また、ゲートソース間に抵抗RBEを接続することで、
Vzの安定に必要なIzが流れるまで、
トランジスタがONしないようにできます。

RBE=120Ωとすると、RBEに流れる電流は
I=0.6V/120Ω=5mA
となり、ZDに流れる電流が5mA以下だと、
トランジスタのベースに電流が流れないので、ONしません。

Izが増加し、5mAを超えた分はベースに電流が流れるようになり、
トランジスタがONします。

CE間にダイオードD1をつけることで、順方向にも電流を流れるようにしていますが、
その必要が無ければ、無くても構いません。

ドロッパ回路

別名、リニアレギュレータや三端子レギュレータと言われる回路です。
これもトランジスタを用いて、ZDだけでは流せない大きな電流を出力できます。

この回路はツェナー電圧Vzが、
そのままベース電圧VBになるので、VBは一定です。

この時、トランジスタはベース電圧VBよりも、
ベース・エミッタ間飽和電圧VGS(sat)だけ低い電圧をエミッタに出力する
動作をします。

一般的なトランジスタのVGS(sat)は0.6V程度なので、
 出力電圧Vout=Vz ー 0.6V
になります。

ツェナー電圧Vzが12Vなら、11.4V出力回路になるという訳です。

本回路の詳しい説明は下記で解説しています。



ツェナーダイオードによる過電圧保護回路

ZDは定電圧回路以外に、過電圧保護にも利用できます。

図のように、基板間のケーブルに静電気やサージが侵入して過電圧が発生した場合、
入出力に接続したZDにより、Vz以上の電圧になったら、
電流を流すことで、電圧の上昇を抑え、部品の故障を防ぎます。

また、外部からの信号を直接、トランジスタのベースに入力する場合も注意が必要です。

特に抵抗内蔵型トランジスタ (デジタルトランジスタ:略称デジトラ) は、
内部抵抗がサージに弱い
ので、ZDによる保護を行います。

操作パネルなど、人が触れることで静電気が発生するため、
このような対策が必要となります。

ここで、過電圧保護とは直接関係ありませんが、
プルアップ抵抗が470Ωと小さい理由は、
スイッチの接点に流れる電流が小さ過ぎると、
開閉を繰り返すうちに酸化皮膜が生成されて接触不良が発生するからです。

プルアップ抵抗を小さくすることで、ある程度の電流を流し、
アーク放電を発生させ、酸化被膜を破壊させます。

これらの過電圧保護で使用するZDは、サージ保護用やESD保護用のものが望ましいです。
また、過電圧保護は、整流ダイオードを用いたダイオードクランプでも行う事ができます。

プルアップ抵抗の詳細については、下記記事で解説しています。

ダイオードクランプの詳細については、下記で解説しています。

以下の記事で、半田付けのコツや部品の外し方を解説しています。