本記事で分かること
・静電気放電(ESD)試験の手順、試験内容がわかる。
・試験にかかかる時間、費用がわかる。
・試験時に知っておくと役立つ対策がわかる。
本記事を読む前に下記記事を読むと分かりやすいです。
↓ イミュニティ(EMS)とは何かについて解説
↓ 各イミュニティ試験の概要について解説
静電気放電試験の手順について
静電気放電イミュニティ試験(IEC 61000-4-2)
ESD(Electro Static Discharge 静電気放電)試験とも呼ばれます。
製品に放電ガンを近づけたり接触させて、2~15kVの静電気放電を発生させます。
この試験では、静電気に帯電した人が製品 に近づいたり触れることで、
静電気放電を受けた時の影響を試験します。
<手順>
①製品を水平結合板(金属の板)の上に敷かれた絶縁シート上に置きます。
(床置き機器の場合は、グランドプレーン(金属の床)上の絶縁台の上に置く)
②水平結合板、垂直結合板を放電ケーブルによりグランドプレーンに接続します。
③放電ガンのリターンケーブルをグランドプレーンに接続します。
④放電ガンの先端に接触放電用又は気中放電用の電極をセットします。
⑤直接放電試験(接触放電、気中放電)、間接放電試験をそれぞれ行います。
(詳細は後で説明します)
⑥接地しない製品の場合は、放電毎に除電ブラシで除電します。
直接放電と間接放電とは
静電気放電試験には以下の種類があります。
・直接放電試験
製品に直接、静電気放電を加える試験で接触放電と気中放電に分かれます。
接触放電:放電ガンを金属部分(ケースやネジ等)に接触させて放電させます。
放電ガンには先が尖っている電極を使用します。
※端子台のネジなど通電している部分には行わない。
接触放電は人が接触する部分についての試験なので、電気が通っている部分には行いません。
通電部分に接触放電をした場合、放電ガンが故障する恐れがあります。
気中放電:放電ガンを非金属部分(スイッチ、タッチパネル等)に近づけて放電させます。
放電ガンには先が丸い電極を使用します。
気中放電は接触させずに電極を近づけて「パチッ」と光と音が出れば放電できたことになります。
この「パチッ」とさせるのが意外とコツがいります。
上手く放電できない時は、距離や近づける速度を変えてみて下さい。
・間接放電試験
製品の近くの導体に静電気放電を加える試験で、以下の2つの板に接触放電させます。
水平結合板(HCP:Horizontal Coupling Plane) ※HCPは卓上機器のみ
垂直結合板(VCP:Vertical Coupling Plane)
製品と結合板は10cm離して配置します。
<試験レベル>
印加ポイント1か所につき、 1秒以上間隔をあけて、各10回行います。
接触放電 気中放電
レベル1 ±2kV ±2kV
レベル2 ±4kV ±4kV
レベル3 ±6kV ±8kV
レベル4 ±8kV ±15kV
試験時間と費用について
<試験時間>
放電を行う印加ポイント1か所(10回x2(±極性)=20回分)につき、
試験時間=約1分(除電する時間も含む)
例として
接触放電 5カ所(ネジ、シャーシ)
気中放電 5カ所(スイッチ、タッチパネル、コネクタ)
間接放電 2カ所(水平・垂直結合板)
計12カ所 1レベルで12分
レベル1~4まで実施した場合、合計48分
※この時間は測定時間なので、セットアップ時間や、試験装置の操作時間等は含んでいません。
このため、試験時間としては少なくとも1時間は必要です。
これは試験中、製品が異常になることなく全てクリアした場合の時間なので、
NGになった場合は対策と再試験の時間がかかることを考慮する必要があります。
印加ポイント数は製品によっては多数になるので、
製品の外形図に印加ポイントを示したものを事前に用意しておくと
手際よく、かつ漏れなく試験ができます。
<費用>
比較的安価な公共の試験サイトの場合は以下になります。
東京都産業技術研究センター(都産技)の場合 (2021年1月現在)
静電気試験器 機器利用費 ¥1,320/h(中小企業の場合¥660)
試験サイトによっては、試験装置以外にシールドルーム使用料もかかる場合が
ありますが、合わせても¥2,300/h程度です。
EMC試験の中では安価な方です。
この金額は機器利用費なので、試験は自分達で行います。
(最初に説明は受けるので、操作方法は知らなくても大丈夫です)
民間の試験サイトで依頼してやってくれるところもありますが、かなり高くなります。
静電気放電試験の対策
静電気試験器は、他のEMC試験機器に比べると安価なので、
試験設備として会社で所有している場合もあると思います。
その場合は試験でNGになっても、時間を気にせず対策できます。
しかし、試験サイトで行う場合は時間の制約があるので、
その場でできることは限られてきます。
ここでは、試験サイトで行う場合の対策について解説します。
・製品を複数台用意する
製品にノイズを注入するイミュニティ試験は製品が故障する場合があります。
特に、静電気放電や雷サージ試験は高電圧を直接加えるので壊れる可能性が高いです。
予備の製品が難しいなら、交換可能な基板や部品を用意しておくべきです。
予備が無いと、当然試験ができなくなります。
また他のEMC試験も実施する場合は、それまで中止になってしまいます。
複数の試験を実施する場合は、この試験はできるだけ最後にします。
・まずは全印加ポイントをやる
壊れるまではいかなくても、誤動作や停止する場合があると思います。
そのような場合でも、まずは全ての印加ポイントを一通りやります。
対策に手間取っていると直ぐに時間切れになります。
全てのポイントで行うことで、OK/NGとなる箇所の違いから、
ノイズの侵入経路を特定しやすくなり、対策を検討するのに役立ちます。
そして後日、対策を十分に行ったうえで再試験をします。
静電気放電試験は電波暗室を使わない試験なので比較的空いており、
次回の予約も取りやすいです。
・考えられる対策を全部盛り込んでから試験する
試験でNGの場合は、考えつく対策を全部盛り込んでから試験します。
最初はコスト度外視で構いません。まずは試験OKにすることを優先します。
対策結果がNGでも現象が悪化しない限り、その対策を外さすに追加で対策を
盛り込むようにします。
その方が時間を節約できますし、もしかしたら複合効果もあるかもしれません。
そして試験OKになったら、そこから一つずつ対策を外していき、
効果のあるものだけを残すようにするのが、最も効率的に対策を行うことができます。
・半田付け治具を用意する
故障時の部品交換や対策部品の取付に、半田付けを行うことがあると思います。
試験サイトには半田コテなどの一通りの工具は揃ってはいますが、
老朽化していたりして使いにくい場合があるので、用意しておいた方が良いです。
フラックスはまず置いていないので、部品取り外しや、半田付けを敏速に行うには
必要不可欠なので、持参することをお勧めします。
自分も自腹で購入し、個人用として所有しています。
一つ持っておくと、普段の半田付けでも使えるので便利です。
もう一つ、あると便利なものとして、低融点ハンダがあります。
半田づけされた部品を外したい場合にとても便利です。
「表面実装取り外しキット」とありますが、リード部品にも使えます。
(むしろ、リード部品の取り外しに使うことの方が多いです)
ピン数が多いSMD部品や、GNDパターンに挿入されたDIP部品はコテの熱が伝わりにくく、
半田が十分溶けないので部品を外しにくいです。
無理に取ろうとすると、基板のパターンまで剥がしてしまう事があります。
低融点ハンダは80℃程度で溶けるので、すぐに固まりません。
基板を傷めずに半田ごて1本で簡単に部品を外せます。
ハンダは鉛フリー、フラックスはハロゲンフリーなので製品に使用してもOKです。
以下の記事で、EMC対策で役立つ工具類を紹介しています。
<具体的な各種対策法については、以下のまとめサイトで解説しています>
<トランジスタの選定方法、FETゲート抵抗の決め方等、トランジスタまとめ記事です>