ノーマル・コモンモードとは? 雷サージ試験の方法と対策

EMC試験



本記事で分かること

・雷サージ試験の手順、試験内容がわかる。
・試験にかかかる時間、費用がわかる。
・試験時に知っておくと役立つ対策がわかる。

本記事を読む前に下記の記事を読むと分かりやすいです。

   ↓ イミュニティ(EMS)とは何かについて解説

   ↓ 各イミュニティ試験の概要について解説

雷サージ試験の手順について

雷サージ試験(IEC 61000-4-5)
 サージイミュニティ試験とも呼ばれます。
 電源ケーブルに0.5~4kVのサージノイズを注入します。

この試験では、誘導雷によるノイズを製品が受けた場合の影響を試験します。

<手順>
 ①絶縁台の上に製品を配置します。
 ②雷サージ試験器と製品までの電源ケーブル長は2m以内にします。
 ③サージを印加するモード(ノーマル又はコモン)を設定します。
 ④サージを印加するタイミング(位相角)を設定します。
 ⑤サージ電圧をレベル1から開始します。

ノーマルモードとコモンモード

雷サージ試験には以下の種類があります。

・ノーマルモード
 AC電源ライン間(単相ならL相-N相)にサージを印加します。
 ノイズが電源ラインと同じ経路を流れます。

・コモンモード
 AC電源ラインとアース間(単相ならL-FG、N-FG)にサージを印加します。
 ノイズが電源ラインからアースを経由して流れます。
  「コモン」(共通)というのは、LとNで流れるノイズの向きが同じことからきています。

<試験レベル>
 各電圧の各位相角で、 1分以内の間隔各5回行います。
  位相角:0°,90°,180°,270°
  (AC入力電圧の位相なので、90°と270°がピーク電圧になります)

      ライン間(ノーマルモード)   ライン-接地間(コモンモード)
 レベル1     なし            ±0.5kV
 レベル2     ±0.5kV              ±1kV
 レベル3     ±1kV              ±2kV
 レベル4     ±2kV              ±4kV

試験時間と費用について

<試験時間>
 AC電源ライン(単相)について行う場合、
 位相角(0°,90°,180°,270°)、±極性で各5回を1分間隔で行うと
   1分×5回×4位相角×2極性=40分

 これをノーマル、コモンモードで行うと
   40分×3モード(L-N,L-FG,N-FG)=120分
 つまり、1レベル試験するのに2時間かかります。

また、製品の入力電圧がAC100VとAC230Vの2種類あるとすると、
それぞれに行う必要があるので4時間になります。

この時間は測定時間なので、セットアップ時間や、試験装置の操作時間等は含んでいません。
そして、NGになった場合は対策と再試験の時間がかかることを考慮する必要があります。

規格では低いレベルから順にあげていく必要があるため、
レベル1~4まで実施すると、ほぼ丸1日かかります。
イミュニティ試験の中でも、かなり時間のかかる試験です。

<費用>
 比較的安価な公共の試験サイトの場合は以下になります。
  東京都産業技術研究センター(都産技)の場合(2021年1月現在)
   雷サージ発生器 機器利用費 ¥1,880/h(中小企業の場合¥1,060)

試験サイトによっては、試験装置以外にシールドルーム使用料もかかる場合が
ありますが、合わせても¥2,600/h程度です。

この金額は機器利用費なので、試験は自分達で行います。
(最初に説明は受けるので、操作方法は知らなくても大丈夫です)
民間の試験サイトで依頼してやってくれるところもありますが、かなり高くなります。



雷サージ試験の対策

雷サージ試験器は、試験設備として会社で所有している場合もあると思います。
その場合は試験でNGになっても、時間を気にせず対策できます。

しかし、試験サイトで行う場合は時間の制約があるので、
その場でできることは限られてきます。 
ここでは、試験サイトで行う場合の対策について解説します。

・製品を複数台用意する
 製品にノイズを注入するイミュニティ試験は製品が故障する場合があります。
 特に、雷サージ試験は高電圧を直接加えるので壊れる可能性が最も高いです。
 予備の製品が難しいなら、交換可能な基板や部品を用意しておくべきです。

 予備が無いと、当然試験ができなくなります。
 また他のEMC試験も実施する場合は、それまで中止になってしまいます。
 複数の試験を実施する場合は、この試験は最後にした方が良いです。

・まずは全条件をやる
 壊れるまではいかなくても、誤動作や停止する場合があると思います。
 そのような場合は、まずは全ての試験条件を一通りやります。
 対策に手間取っていると直ぐに時間切れになります。

 低い電圧でNGだとしても、高い電圧で必ずしもNGとは限りません。
 ノーマル、コモン、極性、位相角でも傾向が出てくると思います。

 これらの傾向は対策を検討するのに役立ちます。
 そして後日、対策を十分に行ったうえで再試験をします。

 雷サージ試験は電波暗室を使わない試験なので比較的空いており、
 次回の予約も取りやすいです。

・考えられる対策を全部盛り込んでから試験する
 試験でNGの場合は、考えつく対策を全部盛り込んでから試験します。

 最初はコスト度外視で構いません。まずは試験OKにすることを優先します。
 対策結果がNGでも現象が悪化しない限り、その対策を外さすに追加で対策を
 盛り込むようにします。

 その方が時間を節約できますし、もしかしたら複合効果もあるかもしれません。
 そして試験OKになったら、そこから一つずつ対策を外していき、
 効果のあるものだけを残すようにするのが、最も効率的に対策を行うことができます。

・半田付け治具を用意する
 故障時の部品交換や対策部品の取付に、半田付けを行うことがあると思います。
 試験サイトには半田コテなどの一通りの工具は揃ってはいますが、
 老朽化していたりして使いにくい場合があるので、用意しておいた方が良いです。

 フラックスはまず置いていないので、部品取り外しや、半田付けを敏速に行うには
 必要不可欠なので、持参することをお勧めします。

自分も自腹で購入し、個人用として所有しています。
一つ持っておくと、普段の半田付けでも使えるので便利です。

もう一つ、あると便利なものとして、低融点ハンダがあります。
半田づけされた部品を外したい場合にとても便利です。

表面実装部品取り外しキット」とありますが、リード部品にも使えます。
(むしろ、リード部品の取り外しに使うことの方が多いです)

ピン数が多いSMD部品や、GNDパターンに挿入されたDIP部品はコテの熱が伝わりにくく、
半田が十分溶けないので部品を外しにくいです。
無理に取ろうとすると、基板のパターンまで剥がしてしまう事があります。

低融点ハンダは80℃程度で溶けるので、すぐに固まりません。
基板を傷めずに半田コテ1本で簡単に部品を外せます。
ハンダは鉛フリー、フラックスはハロゲンフリーなので製品に使用してもOKです。

以下の記事で、EMC対策で役立つ工具類を紹介しています。

具体的な各種対策法については、以下のまとめサイトで解説しています。