放射電磁界イミュニティ試験の方法と対策について

EMC試験



本記事で分かること

・放射電磁界イミュニティ試験の手順、試験内容がわかる。
・試験にかかかる時間、費用がわかる。
・試験時に知っておくと役立つ対策がわかる。

本記事を読む前に下記の記事を読むと分かりやすいです。

   ↓ イミュニティ(EMS)とは何かについて解説

   ↓ 各イミュニティ試験の概要について解説

放射電磁界イミュニティ試験の手順について

放射電磁界イミュニティ試験(IEC 61000-4-3)
放射無線周波電磁界イミュニティとも呼ばれます。
単に「放射イミュニティ」で、この試験を示す場合もあります。

アンテナから80MHz~1GHz(6GHz)の電波(ノイズ)を放射して製品への影響を試験します。
電波の反射を防ぐ事と、周辺機器へ悪影響が出ないように電波暗室で行います。

 <手順>
 ①製品を絶縁台の上に置きます。
 ②アンテナから製品までの距離を3mにします。
  (均一電界面に製品の前面を合わせます)
   前後左右、合わせて4面について個々に試験を行います。
   横置き、縦置きでも使用する製品の場合は、更に上下面も合わせ6面行います。
 ③製品からのケーブルは1m以上、電波にあたるように配置して、余った分は束ねる。
 ④床に電波吸収体を配置します。

 ⑤放射アンテナから以下の条件で電波を照射します。
  偏波(水平、垂直):電波を放射するアンテナの向きを変えて試験します。

  周波数80MHz~6GHz
     製品の種類によって上限が1GHz、2.7GHzの場合もあります。  

上記の周波数範囲を1%ステップで周波数を変化させて製品に電波を照射させます。
この時、各周波数で製品に照射する時間を滞留時間と言います。

この時間は、製品の動作が正常であることを確認することができる時間にします。
言い方を変えると、誤動作した時の反応時間になります。
製品の動作サイクルにもよりますが、1~3秒程度が一般的です。
(規格では最短0.5秒以上と決められています)

⑥製品の動作状態を、暗室内に設けられたカメラを通して、室外から監視します。

  製品によって異常動作かどうかの判断基準は色々あります。
  ロボットのように動作するものなら判断しやすいです。

  そうでない場合は、製品に設けられたランプやブザー、
  もしくは製品に取り付けれらた外部測定器から判断します。

  この外部測定器も電波に照射されるので、影響の受けないものを選定する必要があります。
  例えばアナログ電圧計など、電子機器でないものが望ましいです。

<試験レベル>
 放射する電波の電界強度は以下となっています。
  レベル1     1 V/m
  レベル2     3 V/m
  レベル3      10 V/m
  レベル4      30 V/m

製品の使用環境が商用地域ではレベル2工業地域ではレベル3が適用されます。

試験時間と費用について

<試験時間>
 前提条件として、滞留時間1秒、4面で試験を行う場合
 1偏波・1面あたりの測定時間は、おおよそ以下の時間かかります。
  周波数  80MHz~1GHz  4分 (MHz帯用アンテナ使用)
       1GHz~6GHz  4分 (GHz帯用アンテナ使用)
              計 8分

 2偏波(水平・垂直)、4面(前後左右)で行うので、
  8分×2偏波×4面=64分

この時間は測定時間なので、製品の向きを変更する時間等は含んでいません。
周波数に応じて、途中でアンテナ交換が必要な場合もあります。

これらの時間を各2分とすると、
 1偏波・1面あたり
 (アンテナ交換1回+製品の向き変更3回)×2分=8分
 合計 64分+8分=72分 かかります。 

滞留時間が2秒必要であれば、2倍の測定時間になります。
つまり、滞留時間が測定時間に大きく影響します。

そして、NGになった場合は対策と再試験の時間がかかることを考慮する必要があります。
イミュニティ試験の中でも、かなり時間のかかる試験です。

<費用>
 比較的安価な公共の試験サイトの場合は以下になります。
 東京都産業技術研究センター(都産技)の場合 (2021年1月現在)
  3m法電波暗室       ¥2,780/h
  3m法測定室           ¥920/h
  放射イミュニティ試験装置  ¥2,390/h
               計¥6,090/h

この金額は機器利用費なので、試験は自分達で行います。
(最初に説明は受けるので、操作方法は知らなくても大丈夫です)
民間の試験サイトで依頼してやってくれるところもありますが、かなり高くなります。



放射電磁界試験の対策

この試験で必要な電波暗室を会社で所有している所は限られています。
外部の試験サイトを利用するケースが殆どだと思います。

しかし、試験サイトで行う場合は時間の制約があるので、
その場でできることは限られてきます。
ここでは、試験サイトで行う場合の対策について解説します。

・製品を複数台用意する
 製品にノイズを注入するイミュニティ試験は製品が故障する場合があります。
 雷サージ試験等に比べれば可能性は低いですが、用意はしておくべきです。
 予備の製品が難しいなら、交換可能な基板や部品を用意します。

 予備が無いと、当然試験ができなくなります。
 また他のEMC試験も実施する場合は、それまで中止になってしまいます。
 電波暗室で放射エミッション試験も実施する場合は、そちらを先にした方が良いです。
 (エミッションは製品が出すノイズを計測するだけなので故障することは無いため)

・まずは全条件をやる
 壊れるまではいかなくても、誤動作や停止する場合があると思います。
 そのような場合は、まずは全ての試験条件を一通りやります。
 対策に手間取っていると直ぐに時間切れになります。

 全条件行うことで、製品の向き、周波数で傾向が出てくると思います。
 これらの傾向は対策を検討するのに役立ちます。
 そして後日、対策を十分に行ったうえで再試験をします。

 但し、この試験は電波暗室を長時間使用することから、
 利用率が高く、予約が取りにくい傾向にあります。

 次は1か月以上先まで埋まっていることも珍しくないので、
 その辺も考慮に入れて日程を組むようにします。

・考えられる対策を全部盛り込んでから試験する
 試験でNGの場合は、考えつく対策を全部盛り込んでから試験します。

 最初はコスト度外視で構いません。まずは試験OKにすることを優先します。
 対策結果がNGでも現象が悪化しない限り、その対策を外さすに追加で対策を
 盛り込むようにします。

 その方が時間を節約できますし、もしかしたら複合効果もあるかもしれません。
 そして試験OKになったら、そこから一つずつ対策を外していき、
 効果のあるものだけを残すようにするのが、最も効率的に対策を行うことができます。

・半田付け治具を用意する
 故障時の部品交換や対策部品の取付に、半田付けを行うことがあると思います。
 試験サイトには半田コテなどの一通りの工具は揃ってはいますが、
 老朽化していたりして使いにくい場合があるので、用意しておいた方が良いです。

 フラックスはまず置いていないので、部品取り外しや、半田付けを敏速に行うには
 必要不可欠なので、持参することをお勧めします。

自分も自腹で購入し、個人用として所有しています。
一つ持っておくと、普段の半田付けでも使えるので便利です。

もう一つ、あると便利なものとして、低融点ハンダがあります。
半田づけされた部品を外したい場合にとても便利です。

表面実装部品取り外しキット」とありますが、リード部品にも使えます。
(むしろ、リード部品の取り外しに使うことの方が多いです)

ピン数が多いSMD部品や、GNDパターンに挿入されたDIP部品はコテの熱が伝わりにくく、
半田が十分溶けないので部品を外しにくいです。
無理に取ろうとすると、基板のパターンまで剥がしてしまう事があります。

低融点ハンダは80℃程度で溶けるので、すぐに固まりません。
基板を傷めずに半田コテ1本で簡単に部品を外せます。
ハンダは鉛フリー、フラックスはハロゲンフリーなので製品に使用してもOKです。

以下の記事で、EMC対策で役立つ工具類を紹介しています。

具体的な各種対策法については、以下のまとめサイトで解説しています。