本記事でわかること
・ダーリントン接続の使い方がわかる
・ダーリントン接続のメリット、デメリット
・使用時の注意ポイントがわかる
トランジスタやフォトカプラ等にダーリントン出力タイプがあります。
普通のタイプと何が違うのか、どのような場合に使用するのかについて解説します。
ダーリントン接続とは?
ダーリントン出力タイプは一つのパッケージ内に2個のトランジスタが内蔵され、
図のように接続されています。
この接続をダーリントン接続と呼びます。
このようにすると、電流増幅率hFE=hFE1×hFE2となり、
hFEを非常に大きくできます。
つまり、小さいベース電流で、大きなコレクタ電流を制御できます。
原理は至って簡単です。
Tr1のベースに電流IB1が入力されるとコレクタ電流IC1=hFE1×IB1が流れます。
この電流がTr2のベースに流れるので、IC2=hFE2×hFE1×IB1になります。
従って電流増幅率は、IC2/IB1=hFE2×hFE1となります。
厳密には、Tr2のベースにはTr1のコレクタ電流だけでなく、
ベース電流分も加わるので、(hFE1+1)×IB1となり、
これがhFE2倍されるので、( hFE2×hFE1 +hFE2 )×IB1 になります。
なので、正確な電流増幅率は hFE2×hFE1 +hFE2 なのですが、
hFE2に比べ、hFE2×hFE1が非常に大きいので、hFE2×hFE1で問題ありません。
ダーリントン接続のメリット、デメリットについて
<メリット>
電流増幅率を非常に大きくできます。
一般的なトランジスタのhFEは100程度ですが、
ダーリントントランジスタは2000以上あります。
これにより、僅かなベース電流で大きなコレクタ電流を流すことができます。
制御ICからの出力が1mA程度しか流せなくても、
ダーリントントランジスタを使えば負荷に2A以上の電流を流すことができます。
<デメリット>
この原理を応用すると、3個接続すれば、
電流増幅率はhFE3×hFE2×hFE1となります。
つまり、トランジスタをつなげた数だけ、電流増幅率を大きくできます。
しかし、このダーリントン接続には大きな欠点が3つあります。
1.コレクタ・エミッタ間飽和電圧Vce(sat)が大きい
普通のトランジスタなら、ON時のCE間電圧Vce(sat)は0.1V程度と殆どゼロになりますが、
ダーリントン出力の場合は0.6V以上あります。
条件によっては1V以上にもなるので、
デジタル信号出力として使用した場合、
トランジスタがONしても出力電圧が高く、入力側でLと認識できない場合があります。
Vce(sat)が大きくなる理由ですが、
トランジスタ1個の時はVCE≒0Vですが、
2個つなげると、ベース・エミッタ間電圧VBE2の分がVceに加わってしまうためです。
ベース・エミッタ間電圧は通常0.6V程度あるため、
Vce(sat)をゼロにできなくなります。
2. 損失が大きい
Vce(sat)が大きくなると、消費電力にも影響します。
ON時の消費電力=Vce(sat)×ICとなるので、
Vce(sat)が大きいと、消費電力も大きくなります。
特にダーリントン出力は大電流を流すので、
Vce(sat)=1Vでも、1A流すと1Wにもなります。
これはトランジスタがかなり熱くなることを意味しています。
3. 動作速度が遅い
通常のトランジスタなら蓄積時間0.5us程度なのに対し、
ダーリントン・トランジスタは1.5us以上あります。
100kHz 50%DUTYのパルス信号の場合、
ON時間が5usであることを考えると、
高速スイッチングには向かないことがわかります。
<蓄積時間>
トランジスタがOFFする時の応答時間
トランジスタはONよりOFFの方が応答性が悪いため、
スイッチングに使用する際は、蓄積時間に注意します。
ダーリントン接続の使用例
上記の欠点より、高速デジタル制御には向きませんが、
LED、リレーなど電流で動作する機器の制御には適しています。
下記にLED制御に使用した例を示します。
東芝製ダーリントントランジスタ2SD1223は
hFE=2000、最大コレクタ電流4Aです。
制御対象は照明用LED スタンレー電気製 GBKW110GASです。
照明用ということもあり、順電流700mAを流す必要があります。
制御ICからの出力電流(1mA程度)なので、
hFE=100程度のトランジスタでは電流不足ですが、
2000以上のダーリントントランジスタならば可能になります。
2SD1223のデータシートでIC-hFE特性曲線を見ると、
Ic=700mA時のhFEは3000あります。(Tc=25℃)
したがって、ベース電流IBは
IB=IC/hFE=700mA/3000=0.24mA
となり、制御ICの出力で十分制御できます。
注意点は特性グラフより
コレクタ・エミッタ間飽和電圧VCE(sat)=0.85V
ベース・エミッタ間飽和電圧VBE(sat)=1.4V
であることに注意して下さい。
LEDに0.7A流すと、トランジスタの消費電力は
0.85V×0.7=0.6W となります。
2SD1223の許容コレクタ損失は1W(周囲温度Ta=25℃)であり、
ディレーティングは60%なのでOKとします。
但し、周囲温度25℃以上になるとPcが急減するので、
装置内の温度が高くなる場合は注意が必要です。
もう一つの注意点は、VBE(sat)=1.4Vと、普通のトランジスタの2倍はあることです。
これはダーリントントランジスタが構成上、2個分のVBEとなるためです。
このためベース電圧が低いとトランジスタがONできなくなります。
データシートの等価回路を見ると、
1段目のBE間抵抗4.5kΩ、2段目は300Ωです。
合計4.8kΩあり、ここを1.4V以上にするには、
I=1.4V/4.8kΩ=0.3mA流す必要があります。
これと、先程求めたベース電流IB=0.24mAを加えて、
0.54mAをベースに供給しなくてはなりません。
これはベース抵抗RBをつけることで調整します。
制御ICの出力電圧3Vとすると、ベース電圧1.4Vなので、
RBにかかる電圧は、3-1.4=1.6V
RB=1.6V/0.54mA≒3kΩ
となります。
注意点としては、制御ICの出力電圧は
流す電流が増えると低下します。
(データシートを見ると、出力電流の増加によって出力電圧が低下している筈です)
コレクタ電流を増やすため、ベース電流を大きくした場合、
出力電圧が2V近くまで低下して、
トランジスタがONできなくなる可能があるので注意して下さい。
<トランジスタの詳細については下記の記事で解説しています>
<回路工作で役立つ工具類を下記の記事で紹介しています>