【かんたん解説】MOSFETのスイッチング損失の計算方法 | アナデジ太郎の回路設計

【かんたん解説】MOSFETのスイッチング損失の計算方法

回路設計

この記事でわかること

・FETのスイッチング損失の計算方法
・測定波形から損失を求める事ができる
・添付エクセルシートで簡単計算が可能

MOSFETを使用する際に
安全動作領域(SOA)を超えていないか
確認する方法は、下記記事で紹介しました。

これは単一パルス動作での判定基準です。

連続パルス動作におけるスイッチング損失が、
FETの許容損失を超えていないかについても
判定する必要があります。

このスイッチング損失は、
FETに取り付けるヒートシンクを選定する際にも必要です。

本記事では、ドレイン電圧VDSとドレイン電流IDの波形から、
スイッチング損失を求める方法について解説します。

本サイトからダウンロードできるExcelシートを用いることで、
スイッチング損失を簡単に求められます。

スイッチング損失の計算方法

スイッチング損失の計算は以下の種類に分けて行います。
 ・ターンON損失
 ・ターンOFF損失
 ・オン損失
 ・ボディダイオードの損失

<ターンON及びターンOFF損失>
この2つの損失は、VDS×IDで求まります。

そして、それが時間tだけ発生した場合の電力量は
 電力量[J]=VDS×ID×t
になります。

電力は1秒あたりの電力量なので、
先程の電力量が、スイッチング周期T[s]で発生している場合の電力は、
 電力P[W]=電力量[J]/T[s]
      =VDS×ID×t/T

で求まります。

<補足>
電力計算において、なぜt/Tを掛けるのか?」について、
感覚的に理解するには以下の様に考えます。

電力はW=V×Iで求まりますが、
これは電圧Vと電流Iが、ずっと同じ値である場合の値になります。

この考えを基にすれば、例えば、ずっと同じ値である電力10Wを1時間使用したのが
電力量10[Wh](=10[W]×1[h])という事になります。

このため、VとIが周期Tのうち、時間tだけ発生する場合は、
「ずっとの期間」を周期Tに置き換えて考えると、


「ずっとの期間」の電力がt/Tになるため、
電力計算でt/Tを掛けているのです。

実際のVDS、ID波形は一定でないため、
図のように直線区間毎に分けて計算します。

この図の場合、
区間T1における電力Pは以下で求まります。
 P=( T1/(6T) ){ ( I1×(2V1+V2) + I2×(2V2+V1) }・・・(1)
※この式になる理由は後で解説

計算するのが面倒な式ですが、
添付のExcelシートを使えば
簡単に求めることができます。

<オン区間の損失>
この区間はVDSがほぼ0Vなので、
VDS×IDによる損失計算ができません。

このため、FETのオン抵抗Ronを用いて、
Ron × ID2で求めます。

 電力量[J]=Ron × ID2 × t

スイッチング周期T[s]で発生している場合の電力は、
ターンON/OFF時と同様に、
 電力P[W]=電力量[J]/T[s]
     =Ron×ID2 × t/T

で求まります。

これについても、実際のID波形は一定でないため、
直線区間毎に分けて計算します。

この図の場合、
直線区間T1における電力Pは以下で求まります。
 P=Ron( T1/(3T) ) ( I12+I1・I2+I22) ・・・(2)
※この式になる理由は後で解説

<ボディダイオードの損失>
電流共振回路や同期整流回路では、逆方向のドレイン電流が流れるため、
ボディダイオードの損失VF×Iaveが発生します。

VF:ダイオードの順方向電圧
 (データシートの順方向電圧VDSFの値を使用)
Iave:ダイオードの平均電流

平均電流Iaveは、ピーク値IDSPから三角波近似(つまり、1/2にする)して求めます。
 Iave=(1/2)Idsp

逆方向電流が時間T0流れる場合の電力量は
 電力量[J]=VF×Iave×T0

この電力量がスイッチング周期T[s]で発生している場合の電力は、
 電力P[W]=電力量[J]/T[s]

以上から、ボディダイオードの電力Pは以下で求まります。
 P=VF×(1/2)Idsp×T0/T ・・・(3)



補足:電力計算式について

<ターンON及びOFF区間>
(1)式になる理由について説明します。

下図の直線区間におけるVDSとIDは以下の式となります。
 V(t)= (V2-V1)t/(t2-t1)+V1
 I(t) = (I2-I1)t/(t2-t1)+I1

電力量=VDS×ID×t は以下で表す事ができます。

電力量=∫ V(t)・I(t) dt
=∫{ (V2-V1)(I2-I1)t2/(t2-t1)2 + ( I1・(V2-V1)/(t2-t1) +  V1・(I2-I1)/(t2-t1) )t + V1・I1 } dt
=[(1/3)×(V2-V1)(I2-I1)t3 /(t2-t1)2 +(1/2)× (I1・(V2-V1)/(t2-t1) +  V1・(I2-I1)/(t2-t1))t2 + V1・I1・t ]

上記の不定積分より、t1からt2の定積分を求める
(つまり、t=t2-t1を代入する)
電力量 =(1/3)×(V2-V1)(I2-I1)(t2-t1)3/(t2-t1)2
 + (1/2)× ( I1・(V2-V1)/(t2-t1) +  V1・(I2-I1)/(t2-t1) ) (t2-t1) 2
 + V1・I1・(t2-t1)
=(1/3)×(V2-V1)(I2-I1)(t2-t1) (1/2)× (I1・(V2-V1) +  V1・(I2-I1)) (t2-t1) + V1・I1・(t2-t1)
=( (t2-t1) /6 ){( I1×(2V1+V2)+I2×(2V2+V1) }

電力P[W]=電力量/Tより、
P=( (t2-t1)  /(6T) ){ ( I1×(2V1+V2)+I2×(2V1+V1) }
ここで、t2-t1=T1に置き換えると、(1)式と一致します。

<オン区間>
(2)式になる理由について説明します。

直線区間におけるIDは以下の式となります。
 I= (I2-I1)t/(t2-t1)+I1

電力量[J]=Ron×ID2×t は以下で表す事ができます。
電力量=∫Ron×ID2dt
=Ron×∫{(I2-I1)2 t2/(t2-t1)2 + 2I1・(I2-I1)/(t2-t1) t + I12}dt
=Ron×[(1/3)×(I2-I1)2×t3/(t2-t1)2 +I1・(I2-I1)/(t2-t1)t2 + I12・t]

上記の不定積分より、t1からt2の定積分を求める
電力量=Ron×((1/3)×(I2-I1)2(t2-t1)3/(t2-t1)2 +I1・(I2-I1)(t2-t1)2 /(t2-t1) +   I12・(t2-t1))
=Ron×((1/3)×(I2-I1)2(t2-t1) + I1・(I2-I1)(t2-t1)+   I12・(t2-t1))
=Ron×( (t2-t1) /3)×(I2-I1)2+ 3I1・(I2-I1)+ 3I12 )
=Ron×( (t2-t1) /3 )×( I12+I1・I2+I22)

電力P[W]=電力量/Tより、
P=Ron( (t2-t1)  /(3T) ) ( I12+I1・I2+I22)
ここで、t2-t1=T1に置き換えると、(2)式と一致します。

測定波形から損失を計算する

ドレイン電圧VDSとドレイン電流IDの波形をオシロスコープで測定します。

ドレイン電流IDの測定は電流プローブを用いて下図のように行います。

<注意>
FETを基板から外す時は基板を痛めないように注意が必要です。

特にドレインDと、ソースS端子は、パワー回路に接続されているので、
パターンが太く、半田コテを当てても熱が上がらず半田が溶けにくい為、
無理に取ろうとすると、スルーホールやパッドごと取れてしまいます。

安全確実に部品を外すための道具については、
下記記事で紹介しています。

ケース1:PFC(力率改善回路)の場合

PFC回路はAC/DCコンバータの力率を改善するために用いられます。
この回路で使用されるFETの損失について計算します。
PFC回路については下記で解説しています。

全体波形からスイッチング周期Tは、
T=17.8[μs]

①ターンON及びターンOFF損失
(1)式
 P=( T1 /(6T) )[ ( I1×(2V1+V2)+I2×(2V2+V1) ]
から求めます。

ターンON損失
I1=I2=0Aなので、P=0(損失無し)

ターンOFF損失
 V1=0V,  I1=6.5A
 V2=400V、I2=0A
 T1=0.1μs より、

P=( T1  /(6T) )[ ( I1×(2V1+V2)+I2×(2V2+V1) ]
=(0.1μs/(6×17.8μs))(6.5A×400V)
≒2.43[W]

②オン損失
(2)式
 P=Ron( T1 /(3T) ) ( I12+I1・I2+I22)
から求めます。

I1=0A、I2=6.7A
T1= 12μs
Ron=0.19Ω (データシートより)

P= Ron( T1 /(3T) ) ( I12+I1・I2+I22)
=0.19(12μs/(3×17.8μs))(6.72)
≒1.92[W]

③ボディダイオードの損失
逆方向のドレイン電流は無い(Idsp=0A)ので、P=0(損失無し)

①~③より、スイッチング損失は
Ptotal=0+2.43+1.92+0
  =4.35[W]

となります。



ケース2:LLC(電流共振回路)の場合

LLC(電流共振回路)は、低ノイズ・高効率のスイッチング電源で使用される回路です。
この回路で使用されるFETの損失について計算します。
LLC回路については下記で解説しています。

全体波形からスイッチング周期Tは、
T=15.7[μs]

①ターンON及びOFF損失
ターンON損失は
I1=I2=0Aなので、P=0(損失無し)

ターンOFF損失は2区間に分けて
直線で近似して求めます。

<区間1>
V1=30V, I1=1.2A
V2=40V、I2=1.0A
T1=20ns より(1)式を用いて、

P=( T1 /(6T) )[ ( I1×(2V1+V2)+I2×(2V2+V1) ]
=(20ns/(6×15.7μs))(1.2A×(2×30V+40V)+1.0A×(2×40V+30V))
=(20ns/(6×15.7μs))(120+110)
≒0.0488[W]

<区間2>
P=( T2 /(6T) )[ ( I2×(2V2+V3)+I3×(2V3+V2) ]
=(20ns/(6×15.7μs))(1.0A×(2×40V+80V))
≒0.0339[W]

区間1+2の合計
P=0.0488+0.0339=0.0827[W]

②オン損失
電流共振回路ではオン直後は
ドレイン電流がマイナス(逆方向)になる為、
その区間はボディダイオードの損失③になります。

オン損失はドレイン電流がプラスとなる区間が対象となります。
この波形の場合、直線で近似するために3区間に分けて求めます。

<区間1>
I1=0A、I2=0.5A
T1= 2.6μs
Ron=0.19Ω (データシートより)

(2)式より、
P=Ron( T1 /(3T) ) ( I12+I1・I2+I22)
=0.19(2.6μs/(3×15.7μs))(0.52)
≒0.0026[W]

<区間2>
P=Ron( T2 /(3T) ) ( I22+I2・I3+I32)
= 0.19(1.5μs/(3×15.7μs))(0.52+0.5×0.7+0.72)
=0.19(1.5μs/(3×15.7μs))(0.74+0.35)
≒0.0066[W]

<区間3>
P=Ron( T3 /(3T) ) ( I32+I3・I4+I42)
= 0.19(1.5μs/(3×15.7μs))(0.72+0.7×0.3+0.32)
=0.19(1.5μs/(3×15.7μs))(0.58+0.21)
≒0.0049[W]

区間1+2+3の合計
P=0.0026+0.0066+0.0049=0.0141[W]

③ボディダイオードの損失
逆方向のドレイン電流Idsp=1.5A
t=1.4μs
VF=1.7V (データシートより)

P=VF×(1/2)Idsp×t/T
=1.7V×(1/2)×1.5A×1.4μs/15.7μs
=0.114[W]

①~③より、スイッチング損失は
Ptotal=0.083+0.014+0.114
  =0.211[W]

となります。

エクセルシートを使った損失計算方法

VDSとIDのオシロスコープの波形から、
読み取った値を入力することでスイッチング損失が計算できます。

下記に損失計算用のエクセルシートがあるので活用下さい。

※ダウンロード時のファイル名は「90fb4f0b310e582f941b97b898e3e954.xlsx」になっています。

①VDS、IDのスイッチング波形をオシロスコープで測定します。
 上記のケース1、2を参考にします。

②測定した波形とデータシートから、以下を求めます。
 ・全体波形
   スイッチング周期T
 ・ターンON及びターンOFF波形
   VDS及びIDを直線近似できるように分割します。
 ・データシートより
   オン抵抗Ron
   順方向電圧VDSF(逆方向のドレイン電流がある場合)

③エクセルシートの太枠内に値を入力する。 

★トランジスタやFETの設計方法についてのまとめ記事です。

★基板の部品交換や修正で役立つ工具類を紹介しています。