【疑似共振型も説明】RCC方式フライバック電源の動作原理

回路設計



この記事でわかること

・フライバック電源の動作原理
・RCC方式(自励)とPMW方式(他励)の違い
・RCC方式の回路動作
・疑似共振型によるソフトスイッチングの仕組み

フライバック電源は100W以下の小電力向けに、
装置内の補助電源などに利用されます。

このフライバック電源には、2つのタイプ(RCC方式、PWM方式)があり、
更に、RCC方式を改良した疑似共振型は、
ソフトスイッチング動作により、低ノイズ・低損失となっています。

本記事では、疑似共振型電源の動作原理について解説しますが、
回路が複雑なので、次の3つの段階を踏んで説明します。

1.フライバック電源の動作原理
2.RCC(自励)方式の回路動作
3.疑似共振型のソフトスイッチング動作

フライバック電源の動作原理

スイッチング電源には、大きく分けてフォワード式フライバック式があります。

この2つの電源は回路が似ていますが、
トランスの極性マークの位置の違いで見分けられます。

フォワード式では、一次側FETがON時に、
二次側に電圧が発生し、VF1を経由して負荷に電流を流します。

この時、チョークコイルにエネルギーを蓄えることで、
OFF時もVF2経由で電流を流し続けることができます。

トランスの一次側電圧は入力電圧Vinであり、
二次側電圧は巻き数比に応じた電圧Ns/Np×Vinが出力されます。

フライバック式は、FETがONしても、
二次側は逆向きの負電圧が発生してしまうので、
ダイオードVFにブロックされて電流を流せません。

この時、トランスはフォワード電源のチョークコイルの様にエネルギーを蓄えます。
そして、FETがOFFすると、逆起電圧Vr(フライバック電圧※1)が一次側に発生します。

この時、二次側電圧は正電圧となるので、電流を流すことができます。

ここで、フォワード式と大きく違う点は、
一次側電圧がVinでは無く、逆起電圧Vrになる事です。
このため、二次側電圧もNs/Np×Vrとなります。

二次側へのエネルギー供給が無い期間(フォワード式ならOFF時、フライバック式ならON時)
の出力電流について、
フォワード式が、チョークコイルと出力コンデンサに蓄えたエネルギーで賄うのに対し、
フライバック式は出力コンデンサからの放電電流のみのため、出力電力が小さいです。

しかし、フライバック式は、チョークコイルが不要であり、ダイオードも1個で良い等、
少ない部品点数で回路を構成できます。

※1:フライバック電圧:コイルに流れている電流を遮断した時に発生する逆起電圧。
  この逆起電圧が発生する仕組みについて説明します。
   ここでは、トランスの一次巻線をコイルに置き換えて考えます。

Q1がON時にコイルに10mA流れていたとします。
Q1がOFFすると回路が遮断されますが、これはドレイン・ソース(DS)間に
非常に大きな抵抗があると考えることができます。(ここでは、仮に1MΩとします)

コイルは流れる電流を維持しようとする働きをします。
つまり、抵抗1MΩに10mA流れる事になるので、ドレイン・ソース間電圧VDS
VDS=R×I=1MΩ×10mA=10kV
と非常に高い電圧になります。これが逆起電圧です。
(実際には、ここまで高電圧にはなりません)



RCC方式(自励)とPWM方式(他励)の違い

フライバック電源の制御方式は、
FETのON/OFFタイミングを決める方法として、以下の2つがあります。

・RCC方式(自励式) RCC:リンギング・チョーク・コンバータ)
 補助巻線を介して、自らのON/OFF動作で発生した電圧を基に
 スイッチングを制御しているので自励式とも呼ばれます。
 (一次側電圧をモニタするため、補助巻線の極性は一次側と同じ)

RCC方式における定電圧制御は以下の仕組みとなっています。

<入力電圧が変動した場合>
ON期間中にトランスに充電するエネルギーと
OFF期間中にトランスから放出するエネルギーは同じなので、
 Vin×Ton=Vr×Toff

二次側電圧Vout=Ns/Np×Vrの式を変形すると、
 Vr=Np/Ns×Vout

先程の式に代入して
 Vin×Ton=Np/Ns×Vout×Toff

変形すると、
 Vout=Vin×Ton/Toff×Ns/Np

この式より、入力電圧Vinが変動した場合、
TonとToffの比を変える(ON DUTYを変える)
ことにより、Voutを一定に保つことができます。

<出力電流(負荷)が変動した場合>
トランスに充電するエネルギーを調整するため、
TonとToffの比は変えずに、Tonを変えます。

これによってToffも変わるため、周波数が変化します。

従って、出力電流が変動した場合、
スイッチング周波数を変化させることにより、
Voutを一定に保つことができます。

・PWM方式(他励式)  (PWM:パルス幅変調)
 この方式にも補助巻線がありますが、タイミング制御用ではなく、
 制御ICへの供給電源として使用します。
 (二次側電圧と同じ定電圧供給を目的とするため、補助巻線の極性は二次側と同じ)

制御IC内の発振器により、固定周波数でスイッチングするため、
自らのON/OFF動作とは関係無いことから、他励式とも呼ばれます。

PWM方式は入力電圧や負荷電流の状態に応じて
スイッチング周期は固定のまま、ON DUTYだけが変化するため、
ONタイミングが異なる3つの動作モード(不連続、臨界、連続)があります。

RCC方式は、トランスの補助巻線の電圧がゼロになったらONします。
これは二次側電流がゼロの時なので、基本的に臨界モードで動作します。

RCC方式(自励式)の動作原理

RCC方式のスイッチング動作は以下の順番で行われます。

1.起動(最初だけFETをONする)
 ①起動抵抗R1でゲート電圧を上げてONさせます。
 このR1は起動時にQ1をONさせるためだけに使用するため、
 できるだけ抵抗値を大きくして、損失を小さくします。

2.ON期間(トランスにエネルギー充電)
 ②二次巻線の極性が一次側とは逆のため、二次側に負電圧が発生します。
 しかし、整流ダイオードD1にブロックされて電流が流せません。
 これによって、トランスにエネルギーが蓄えられます。

 補助巻線の極性は一次巻線と同じなので、正電圧が発生し、
 Q1のゲートに電流が流れ込むことで、ON状態を維持します。

 補助巻線の電圧が上昇し、ZD1のツェナー電圧より高くなると、
 R6を経由してC4が充電されます。

 ③C4への充電にはフォトカプラPC1経由の別ルートがあります。
 Voutが設定電圧よりも高い場合、シャントレギュレータIC1に電流が流れることで、
 フォトカプラがONし、C4への充電電流が加算されます。

 これによって、Voutが高すぎる場合、エネルギー充電を早めに終わらせることで、
 次のOFF時に、二次側に放出するエネルギーが減少し、Voutを低下させます。

3.ターンOFF(補助巻線の働きによりFETをOFFする)
 ④C4の充電電圧がある程度まで上昇するとQ2がONします。
 ⑤Q1のゲート電圧が下がるため、Q1がOFFします。

C4の充電時間がQ1のON時間を決めています。
トランスに蓄えるエネルギーはON時間に比例するので、
出力電流に応じて、充電時間を調整することで、出力電圧を一定に維持できます。

充電時間はR6とC4の時定数で決まりますが、
ツェナーダイオードZD1によって、補助巻線がツェナー電圧以上にならないと
C4に電流が流れないため、その分、充電開始を遅らせることができます。
(Vout上昇により、フォトカプラがONしない限り)

この後のOFF期間にC4が放電される際は、ZD1が影響しないため、
C4充電時間>放電時間となり、Q1のON時間の方がOFF時間より長くすることで、
エネルギー充電時間を確保するようにしています。

4.OFF期間(トランスから二次側にエネルギーを放出)
 ⑥Q1がOFFしたことで、トランスの一次側に逆起電圧 Vrが発生します。
 二次巻線には逆向きの正電圧が発生し、整流ダイオードD1を経由して出力電流Isが流れます。
  
 ⑦補助巻線の極性は一次巻線と同じなので、補助巻線にも逆電圧が発生します。
 
Q1のゲートに負電圧が印加されることで、OFF状態を維持します。

 この時、C3が充電(ゲート側が+)されます。
 (Q2がONしているので、C3のゲート側は0Vですが、補助巻線側は負電圧になるので充電される)

5.ターンON(補助巻線の働きによりFETをONする)
 ⑧トランスに蓄積されていたエネルギーが全て放出されます。
 この時、一次側巻線の逆電圧が無くなることで、補助巻線の逆電圧も無くなり、0Vとなります。

 ⑨C4からZD1を経由して放電されるため、Q2はベース電圧が低下してOFFします。
 ⑩OFF期間中に充電したC3からQ1のゲートに電流が流れ込むことでターンONします。
  
以上、2~5を繰り返します。

この時の動作波形は以下になります。

ターンONはトランスに蓄えたエネルギーがゼロになる時であり、
これは二次側電流がゼロになるタイミングと同じなので、臨界モードで動作します。

そして、あらかじめ設定したエネルギー充電時間が経過、
もしくは出力電圧が高すぎる時にOFFします。

ターンON及びターンOFF時の損失は
VDSとIDの重なる部分(赤色)の面積に相当します。

<FETの過電流保護>
R3、R4はQ1の過電流保護回路です。

ドレイン電流が増大した場合、R4電圧が上昇することで、
R3を経由してC4への充電電流が加算され、
Q2が早くONすることで、Q1をOFFして過電流状態を回避することができます。

検出抵抗R4は通常動作時の損失を低減するため、1Ω以下の低抵抗値にし、
定格電力は消費電力の2倍以上のものを使用します。



疑似共振型RCC方式の動作原理

共振というと、難しい印象がありますが、波形が正弦波になることです。

「疑似」とついている理由ですが、
LLC電流共振回路が、トランスとは別に共振用インダクタを設け(※2)
電流波形が全周期に渡って正弦波であるのに対し、
疑似共振回路は、トランスのコイルをインダクタとして利用し、
電圧波形の一部分だけが正弦波になることから来ています。

(※2:トランスと共振インダクタが一体となった電流共振用トランスもあります)

LLC電流共振回路については、下記記事で解説しています。

疑似共振型電源の回路図を示します。

実際にはPWM方式のように疑似共振用の制御ICを使用することが多いですが、
動作説明の為、ここでは、ディスクリート品(個別半導体)で構成しています。

回路構成は、先ほどのRCC方式に遅延回路(Q3,C5,R13,R14,D3)と、
共振用コンデンサC7を追加したものとなっています。

疑似共振型の動作波形を示します。

Q1のOFF期間において、トランスのエネルギーが放出し終わると、
Q1のドレイン・ソース間電圧VDSは、
共振用コンデンサC7と一次巻線のインダクタンスLpとで共振現象が発生することで、
入力電圧Vinを基準に共振周波数frの周期で正弦波状に減少していきます。

(共振現象の仕組みについては後述します)

このVDSの減衰波形が最も低くなる谷の部分でONするようにゲート信号を遅延させ、
VDSとIDの重なる部分を小さくすることで、ターンON損失を低減します。

<遅延回路の動作>
ゲート信号を遅延させる回路ですが、
Q3のエミッタが接地されていないと難しく感じるかもしませんが、
エミッタ電圧がベース電圧とほぼ同じになるように動作するだけの回路です。
(D3はエミッタ電圧がベース電圧より高くならないようにするための保護用 ※3)

トランジスタは、エミッタ電圧がベース電圧より常に0.6V程度だけ低くなる様に動作します。

この0.6V程度というのはベース・エミッタ間電圧VBEであり、
NPNトランジスタのPN部分のダイオードの順方向電圧VFに相当します。
(正確なVBEの値はトランジスタのデーターシートに記載)

つまり、Q3のエミッタ電圧(A点)はC5電圧より0.6Vほど低い電圧になります。

遅延回路が無い場合、補助巻線の電圧が負電圧→0Vになったら、A点も0Vになり、
充電されていたC3電圧のゲート側電圧が持ち上がってQ1がONします。

しかし、遅延回路によりA点の電圧は、ほぼC5電圧であり、
C5はOFF期間中に負電圧に充電されていたので、A点は負電圧のままです。

その後、C5はR14を経由して放電されるので、A点は徐々に0Vに近づいていき、
最後は、遅延回路が無い時と同様にQ1がONします。

このC5の放電スピードは時定数C5×R14で決まるため、
この遅延時間を共振周波数frにおける周期の1/2になるようにC5とR14を調整することで、
VDSが谷のタイミングでONできます。

このVDSが谷になるまでの時間はLpとCで決まるため、
遅延時間は入力電圧や出力電流に関係なく一定です。
従って、二次側電流は常に不連続モードになります。

一方のターンOFF時はC7の効果により、
ID及びVDS波形の傾きが緩やかになることで、スイッチングノイズが減少
します。
また、VDSとIDの重なり部分が小さくなるため、ターンOFF損失を低減できます。

※3 保護ダイオードD3について
電源OFF時など、遅延回路への入力となるコレクタ電圧が低下時に、
出力となるエミッタ電圧がコンデンサの残留電圧等で低下が遅く、
コレクタ電圧<エミッタ電圧となる場合があります。

この時、ベース電圧はコレクタ電圧よりも低いため、
ベース電圧<エミッタ電圧になります。

トランジスタのベース~エミッタ間最大電圧は5V程度と低いため、壊れる可能性があります。

これを防ぐため、C-E間にダイオードを接続し、
エミッタ電圧の方が高くなったら電流を流すことで、エミッタ電圧の上昇を抑えます。
このダイオードは順方向電圧が低いショットキーダイオードが適しています。

<共振コンデンサの決め方>
共振コンデンサは通常、数百pF~数千pFにしますが、
重視する特性によって、次のように決めます。

・低ノイズ重視
 容量を大きめにすることで、電圧、電流の立上りを緩やかになるため、
 ターンOFF時のノイズを低減できます。

・高効率重視
 容量を小さめにすることで、Q値が大きくなるため、(※4)
 ターンON時のVDSの振幅が大きくなり、
 VDSがより低い電圧でONでき、ターンON損失を低減できます。
       
 ※4:共振時の振幅幅はQ値(共振の鋭さ)の大きさに比例し、
 直列共振回路においては、以下の式となります。
  Q=ωL/R=1/ωCR=1/R×√(L/C)


 式を見て分かるようにQ値は、コンデンサC(またはコイルL)電圧が、
 抵抗Rの電圧の何倍になるかを表しており、
 Cを小さくすることでQ値が大きくなり、振幅が大きくなります。

<共振現象で電圧が正弦波状に減衰する仕組み>
下記の回路に置き換えて説明します。
スイッチOFFにより、VC=電源電圧Vin+逆起電圧Vrとなりますが、
Lに蓄えたエネルギーが無くなるとVrが減少し、Vinまで低下します。

この時、Cからの放電電流は停止する筈ですが、
Lは電流の変化を妨げるように作用して、放電電流を流し続けるため、
C電圧がVinよりも低くなっても放電し、0V付近まで下がってしまいます。

その後、C電圧が下がり過ぎたので、
電源から再び充電電流が流れることでC電圧がVinになりますが、
今度もLにより電流を流れ続けようとするので、
再び充電電流が流れ過ぎてC電圧がVinより高くなります。

LC直列回路の共振条件を満たす場合、この動作が永久に続きますが、
実際には抵抗成分が存在するためエネルギーを失っていくことで、
少しづつ振動幅が縮小し、Vinに収束します。

★フライバック電源用トランスの設計方法について解説しています。

★試験・工作時で役立つ工具類を紹介しています。