【DCDC電源回路】出力コンデンサの役割と容量の選び方 | アナデジ太郎の回路設計
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【DCDC電源回路】出力コンデンサの役割と容量の選び方

出力コンデンサの役割 回路設計

この記事でわかること

・出力コンデンサの役割
・電解コンデンサの選び方

・コンデンサのリップル電流とリップル電圧の求め方

電源回路には電圧平滑化のため、入力と出力にコンデンサが使用されます。
本記事では、出力コンデンサで主に使用される電解コンデンサの容量や耐圧を
どのように選定すれば良いか解説します。
 入力コンデンサの選定方法については下記記事で解説しています。

出力コンデンサの役割

出力コンデンサは、一時的な電池としての役割を持ちます。

出力コンデンサの役割

具体的には、瞬間的に負荷電流が大きくなっても、
充電されたコンデンサから電流が供給されることで、出力電圧の低下を防ぐことができます。 

しかし、出力電圧をフィードバックして電圧制御する回路では、
コンデンサをつけると出力電圧が発振(変動)しやすくなるため、
抵抗をコンデンサに直列接続し、位相補償回路を形成することで発振を抑えます。(※)

電解コンデンサによる位相補償の役割

※電源回路の位相補償については下記記事で解説しています。

ここで、電解コンデンサ(以下、電コンと記す)を使用した場合、
等価直列抵抗(ESR)と呼ばれるコンデンサの内部抵抗成分が他のコンデンサに比べ大きいため、
電コンの選定が適切ならば、抵抗を設けなくても発振を防ぐことができます。(※)
 ※発振防止に役立つESRですが、大きいと発熱や電圧降下を発生させる欠点があるため、
  電源レギュレータICの中にはセラミックコンデンサを使用しても発振しないように設計された製品もあります。

出力コンデンサの選定基準

電源回路に使用される電コンの主な選定基準は以下になります。
 ・耐電圧
 ・静電容量(リニア電源の場合)
 ・定格リップル電流(スイッチング電源の場合)

リニア電源とスイッチング電源のリップル電流

耐電圧については、コンデンサに印加される電圧が定格の80%以内に収まるようにします。
電源の回路方式によりますが、目安としては出力電圧の2倍程度のものを選びます。

次に静電容量ですが、スイッチング動作の無いリニア電源に使用する際は、
出力電流1Aあたり100uFを目安に選びます(※)が、
スイッチング電源については静電容量では無く、定格リップル電流を基に選定します。

 ※電源レギュレータICのデータシートに容量の指定があればそれに従います。

その理由ですが、電コンは電子部品の中で寿命が短く、
『電コンの寿命=設計する製品の寿命』と言っても過言ではありません。

電コンの寿命は温度による影響が大きく、
リップル電流による自己発熱が寿命を左右する主な要因となります。

スイッチング電源の場合、流れる電流に断続性があり、
電コンへの充放電が頻繁に行われるため、リップル電流が大きくなることから、
データシートの定格リップル電流以下になるように選定します。



リップル電流の求め方

一般的には、リップル電流の実効値が定格の80%以下になるコンデンサを選びます。

実効値は計算で求めることができますが、
最終的には実測値(オシロスコープの実効値表示)を確認します。
 リップル電流の測定方法については下記記事で解説しています。

リップル電流波形は電源回路の種類によって異なるため、
実効値を求める計算式も電源によって違います。
ここでは、降圧コンバータとフライバック電源における計算式を紹介します。

降圧コンバータの場合

非絶縁型スイッチング電源(降圧型)

図に示す非絶縁型降圧コンバータにおいて、
出力コンデンサに流れるリップル電流は下図の様な波形となります。

降圧コンバータの各電流波形

この場合のリップル電流の実効値は①式で求めることができます。

降圧コンバータのリップル電流の計算式

<①式となる理由>
出力電流Ioutを一定にするため、コイル電流の変動分をコンデンサが吸収し、
それがリップル電流となるので、まずはコイル電流の変動分を求めます。

ON期間TONにおけるコイル電流の増加分⊿IL(ON)
 ⊿IL(ON)=(VinーVout)/L × TON ・・・②

OFF期間TOFFにおけるコイル電流の減少分⊿IL(OFF)
 ⊿IL(OFF)=Vout/L×TOFF ・・・③

定常状態ではこの増減は等しくなるので、
 ⊿IL=⊿IL(ON)=⊿IL(OFF)

この式に②③式を当てはめると、
 (VinーVout)/L × TON=Vout/L×TOFF
 (VinーVout) × TON=Vout×TOFF
 Vin× TON=Vout(TON+TOFF
 Vout/Vin=TON/(TON+TOFF) ・・・④

TON+TOFFはスイッチング周期になるので、この時のスイッチング周波数をfswとすると、
 fsw=1/(TON+TOFF)

④式を変形すると、
 TON=Vout/Vin ×(TON+TOFF
   =Vout/Vin ×1/fsw ・・・⑤

②式に⑤式を合成すると、⊿IL=(VinーVout)/L × TON
  =(VinーVout)/L × Vout/Vin ×1/fsw

この⊿ILがリップル電流のピーク・ツー・ピーク値Irip(p-p)となります。
 Irip(p-p)=(VinーVout)/L × Vout/Vin ×1/fsw ・・・⑥

次に、三角波の実効値の公式より
 I(rms)=I(max)/√3

この最大値I(max)はピーク・ツー・ピーク値の半分になるので、
 Irip(rms)=Irip(p-p)/2√3  ・・・⑦

 
⑦式に⑥式を合成すると①式になります。   
 Irip(rms)=1/(2√3)× (VinーVout)/L × Vout/Vin × 1/fsw

<計算例>
 L=50uH、fsw=100kHz、Vin=12V、Vout=5Vの時のリップル電流は、
  Irip(rms)=1/(2√3) × (12Vー5V)/50uH × 5V/12V × 1/100kHz
      ≒169mA

 ディレーティングを80%にした場合、
  169/0.8=212mA
 となるので、定格リップル電流が212mA以上のコンデンサを選択します。

フライバック電源の場合

フライバック電源はFETがオフ時に発生する逆起電圧によって、
トランスの二次側に電圧が出力される仕組みです。

絶縁型スイッチング電源(フライバック型)

フライバック電源の動作原理については下記記事で解説してます。

このため、二次側のダイオードにはオフ時のみ電流が流れ、
負荷に電流を出力すると共にコンデンサを充電し、
オン時はコンデンサからの放電により負荷に電流を出力します。

フライバック電源の各電流波形

この時のリップル電流波形は上図の様になり、実効値は⑩式で求まります。

フライバック電源のリップル電流の計算式

<⑩式となる理由>
リップル電流の実効値はダイオード電流idから出力電流Ioを引いた値(idーIo)の実効値になるので、実効値の公式より

 (ここで、ダイオード電流は時間と共に変化するので小文字のiD、固定値の出力電流は大文字のIOにしています)

リップル電流の計算式の説明

ダイオード電流は三角波パルス波形になるので、三角波パルスの実効値の公式(※)より、

リップル電流の計算式の説明

ここで、ピーク電流がIpの連続三角波の平均値はIp/2で、
これが連続波でなく、TOFFだけ出力されるパルス波の場合の平均値はTOFF/Tをかけた値になるので、(※)

 (上記2か所の※については、後述する<備考>を参照)

リップル電流の計算式の説明
リップル電流の計算式の説明

<備考>
 連続波形の実効値や平均値が分れば、パルス波形の実効値と平均値は以下の計算式となります。

 このルールはピーク値と周期が同じなら、図で示した三角波以外の方形波や正弦波でも適用できます。

連続波とパルス波の平均値と実効値の計算式の関係



電解コンデンサの選び方

算出したリップル電流を基にして、電コンを選択することになりますが、
電コンには大別して、入力平滑用出力平滑用に分かれます。

電解コンデンサ体系図

一見すると、入力用は商用電圧以上の高耐圧で、
出力用は100V以下の低耐圧の違いだけのように見えますが、
定格リップル電流を規定する周波数も異なっています。

これは、データシートの定格リップル電流の周波数補正係数において、
変換定数が1となる周波数で見分けることができます。

入力コンデンサと出力コンデンサの定格リップル電流 周波数補正係数の違い

入力平滑用は商用周波数を全波整流した周波数120Hzで規定され、
出力平滑用はスイッチング周波数で主に使用される100kHzとなっています。

出力平滑用については、高周波化と低ESR化が進み、定格リップル電流が大きくなっています。

また、寿命については同じシリーズの製品でも、コンデンサの直径が太いほど長寿命です。
例えば直径Φ5mmで寿命が5,000Hでも、Φ10以上だと10,000Hと2倍の違いがある製品もあります。

電解コンデンサ直径による寿命の違い

これは、出力コンデンサに限った話ではなく、電コンを使用する全ての回路に適用されるため、
小型化を優先するあまり、小さい径の電コンを1つでも選ぶと、回路全体の寿命低下をもたらす
ので注意が必要です。

リップル電圧の求め方

出力電圧に含まれるリップル電圧は、リップル電流のピーク・ツー・ピーク値と、
電コンの等価直列抵抗(ESR)より求めることができます。
  Vrip(p-p) = Irip(p-p) × ESR

リップル電圧の許容値は、電源の出力先である負荷の仕様によりますが、
一般的には出力電圧の1%程度
であり、そのためにはESRの小さい電コンを使用します。

ESRはデータシートにある損失角の正接(tanδ)から計算できますが、(※)
tanδの条件は120Hz時の値であり、tanδ規格値のマージンと静電容量許容差の影響によって
数10%~数倍の誤差が生じる場合があることから、
高周波スイッチング周波数で使用する場合は計算値を使用しません。

 ※:ESR=tanδ/(2×π×f×C) 
    fはカタログ規格の場合は120Hz

このため、出力平滑用コンデンサのデータシートには
100kHzでのインピーダンスが規定されているので、その値を使用します。

(但し、寿命の規定にはtanδを使用していることから、寿命計算にはtanδを用います)

入力用と出力用電解コンデンサのESR記載項目の違い

<計算例>
 先程の降圧コンバータの例で、⑦式を変形してピーク・ツー・ピーク値を求めると、
  Irip(p-p)=2√3 × Irip(rms)
     =2√3 × 169mA ≒ 585mA

 ESRが64mΩの電コンを使用した場合のリップル電圧は
  Vrip(p-p)= Irip(p-p) × ESR
      = 585mA × 64mΩ
      ≒ 37mV

リップル電圧を小さくしたい場合は、電コンを並列接続することでESRを半分にできますが、
各電コンのパターン長の違いにより、リップル電流が均等に分割されず、
回路の上流に近い電コンのリップル電流が大きくなり、リップル電圧は半分にならないことから、
測定により確認する必要があります。

リップル電流を均一化させる方法としては、
以下の様に各電コンの配線長とパターン幅を同じにする対策があります。

並列コンデンサのリップル電流を均一化される方法