【単一故障状態とは?】漏れ電流の許容値と測定方法 | アナデジ太郎の回路設計

【単一故障状態とは?】漏れ電流の許容値と測定方法

単一故障状態における漏れ電流の違い 信頼性評価

この記事でわかること

・安全規格による漏れ電流の許容値
・漏れ電流の種類と単一故障状態について
・漏れ電流の測定方法

電子機器に人が触れた時に流れる漏れ電流によって生じる感電危害から守るため、
対象機器や利用分野ごとに漏れ電流の許容値が安全規格で定められています。
本記事では、一般電子機器における漏れ電流の許容値や測定方法について解説します。

<注意点>
本記事は、IT機器やAV機器の国際安全規格であるIEC62368-1を基にした内容であり、
それ以外の機器(医用電気機器など)は対象外です。

また、可能な限り正確な情報を掲載するよう努めていますが、
誤情報が入り込んだり、情報が古くなったりすることもあることから、
必ずしも正確性を保証するものではありません。また合法性や安全性なども保証しません。

当サイトの掲載内容で生じた損害等の一切の責任を負いかねますので、ご了承下さい。

安全規格による漏れ電流の許容値

人が感電を感じる時の電流ー周波数特性を見ると、低周波ほど感電しやすく、
商用周波数(50/60Hz)では100mA流れると死亡に至ります。

人が感電を感じる時の電流ー周波数特性

安全規格(IEC62368-1)(※)では一般人が接触しても問題ない電圧・電流レベルを
ES1(Energy Source:電気エネルギー源)クラスとして定義しており、
このES1におけるタッチカレント(接触電流)の限度値として、
商用周波数(50/60Hz)では、交流1kHz未満に該当する0.5mA以下に規定しています。
 ※IT機器やAV機器などが対象となる国際安全規格で、
  2020年12月から旧規格であるIEC60950-1から移行されたものです。

IEC62368-1限度値

このES1限度値以下となる状態は、正常状態の他に、単一故障状態も含まれます。
但し、セーフガードとして用いている絶縁が単一故障した場合はES2限度値以下となります。

単一故障状態とは、機器に備えられた危害に対する保護手段の一つが故障するか、
または危険を引き起こす可能性のある一つの欠陥が存在する状態のことです。

セーフガードとは、絶縁などの感電防止策を指します。
但し、機能絶縁は機器の正常動作を目的とした絶縁であり、
感電保護を目的としていないため、セーフガードには該当しません。

セーフガードとして用いている絶縁の単一故障状態とは、基礎絶縁が破壊(短絡)した場合です。
安全規格上、強化絶縁や二重絶縁の単一故障状態は発生しないという前提になっています。
 基礎絶縁や強化絶縁の適用については下記記事で解説しています。

【基板設計】安全規格に対応したパターン間隔の決め方
【本記事でわかること】基板のパターン間隔の決め方がわかる。安全規格への対応の仕方がわかる。

漏れ電流の種類

漏れ電流の種類と測定方法はIEC60990で規定されており、
一般電子機器における漏れ電流は、保護接地線を通って大地に流れる接地漏れ電流と、
機器に接触した人体に流れる外装漏れ電流の2種類があり、
測定条件として、機器が正常状態の時だけでなく、単一故障状態の場合も行います。

接地漏れ電流
 機器の保護接地線(アース線)を通って大地に流れる電流で、
 アース線の無いクラスⅡ機器(※)は測定の対象外です。

接地漏れ電流

 ※国際規格IEC60335-1(家庭用電気機器の安全性)において、感電保護レベルに応じて機器をクラス分けしている。
  ・クラスⅠ機器
   感電保護を基礎絶縁のみに依存せず、基礎絶縁の不良時に
   金属外装を触っても感電しないように接地手段(アース線)を備えた機器。

   電源コードはアース付きの3Pプラグとなっているが、
   国内限定の規格(JIS C 9335-1)では、アース線が独立した2Pプラグのクラス0Ⅰ機器もある。
     例:冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなど

アースプラグ形状

  ・クラスⅡ機器
   感電保護に強化絶縁又は二重絶縁を備えることで、接地手段(アース線)が不要の機器。
     例:ドライヤー、テレビなど

外装漏れ電流(接触電流)
 機器の保護接地していない外装に触れた時に人体を流れる電流で、
 測定は人体に相当する抵抗(主に1kΩをベースにした回路)を使って行います。

外装漏れ電流

 保護接地していない外装にはプラスチック等の絶縁材料が主に使用されており、
 このような非金属外装には、手のひらを想定した約10cm×20cmの金属箔(※)を
 0.5N/cm2の力で押しあてて測定します。 ※漏れ電流試験器に付属の面接触プローブが利用できる

 クラスⅠ機器の場合、アース線で接地されている金属外装は測定対象外で、
 接地されていない外装があれば、その部分を測定します。
 ただし、単一故障状態(アース線が断線)時は、金属外装も測定対象になります。

 クラスⅡ機器は保護接地をしていないので、全ての外装が測定対象です。

外装漏れ電流には電流ルートによって以下の3種類があります。
・外装ー接地間漏れ電流 :外装→人体→大地 ルート
 外装に接触時、人体を通って大地に流れる漏れ電流。

・外装ー外装間漏れ電流 :外装→人体→外装 ルート
 電気的に分離(独立)している2つの外装に接触時、人体に流れる漏れ電流。

・外装ーライン間漏れ電流 :外装→人体→ラインルート
 外装に接触時、人体(未接地)から電源ライン(L /N) に流れる漏れ電流。

外装漏れ電流試験は、保護接地(アース)してない外装が測定対象です。
接地された外装で、外装ーライン間漏れ電流を測定すると、
電源ラインがアースに接続されるため、地絡を起こして測定器のヒューズが切れたり、
ブレーカーが落ちるので注意します。



単一故障状態における漏れ電流

漏れ電流試験における単一故障状態には、電源線の片線切れか、保護接地線切れがあり、
どちらの状態でも、漏れ電流はES1限度値以下である必要があります。

 漏れ電流試験における単一故障状態
  ・接地漏れ電流:電源線の片線切れ
  ・外装漏れ電流:電源線の片線切れ、保護接地(アース)線切れ

接地漏れ電流は接地線に流れる電流を測定するため、
保護接地線切れの単一故障状態は存在しません。
また、電源線の片線切れについては、N相を断線します。

N相側を片側断線させると漏れ電流が2倍になる

L相ではなくN相を断線させる理由ですが、
非接地側のL相を切ると、接続されているN相は接地側なので対地間の電圧はほぼ0Vとなり、
N相側からの漏れ電流は殆ど流ないです。
家庭の照明器具などに使われている片切スイッチはこの接続であり、故障状態に該当しません。

接地側のN相を切った場合、非接地側のL相から機器に電流が流れますが、
N相側から電源へ電流が流れないため、L相と同程度の電圧がN相にも印加された状態となり、
正常時はL相からだけ漏れていた電流が、N相からの分も加算されて、漏れ電流が増加します。

<L相やN相からFGに漏れ電流が流れる理由>
ACライン(L相やN相)はグランド(FG)と配線が繋がっていないのに電流が流れる理由ですが、
一般的な電子機器にはAC電源からのノイズ流入や電子機器からのノイズ流出を防ぐため、
L相やN相とFG間にYコンデンサを接続して高周波ノイズをグランドに逃がしており、
これが漏れ電流となっています。
 ※Yコンデンサが無くても、ACラインとグランド間には浮遊容量が存在するため、微小な漏れ電流が流れます。

AC電源入力回路におけるXコンデンサ、Yコンデンサの適用例

Yコンデンサの漏れ電流は、I=2πfCVで求められます。
     f:周波数[Hz]、 C:Yコンデンサの静電容量[F]、 V:Yコンデンサ両端の電圧[V]
このため、Yコンデンサの静電容量や入力電圧が高いと漏れ電流は増加します。
 Yコンデンサについては下記記事で解説しています。

【具体例で解説】Xコンデンサ、Yコンデンサの役割と選び方
X/Yコンデンサは電源からのノイズを除去したり、回路内で発生したノイズを電源側に放出させない役割を持ちます。本記事ではX/Yコンデンサの役割や特徴を解説し、実際のノイズ低減効果や具体例を紹介します。



漏れ電流の測定方法

漏れ電流を測定する際は絶縁トランスを使用するのが望ましいです。
その理由は、安全の確保と正確な測定を行うためです。

N相を接地することで正確に漏れ電流を測定できる

N相は接地側なので、理想的な電源では接地(E)間との電圧はゼロですが、
実際の商用電源は配線のインピーダンス(簡単に言うと抵抗)の影響や、
その系統に接続された機器による漏れ電流の影響を受けて、
数V程度の電圧が存在するため、これが漏れ電流の測定時に誤差が生じます。

この誤差をなくすためにN相を、そのまま接地すると、
配線や系統によっては地絡して、ブレーカーが作動してしまうため、
絶縁トランスを間に入れ、商用電源とは電気的に絶縁した電源を用いることで、
N相を安全に接地できます。

漏れ電流の測定方法

漏れ電流試験機には、人体に相当する抵抗を内蔵した漏れ電流測定回路があり、
電源線や接地線のON/OFFなどを行うことで、単一故障状態を模擬することもできます。

代表的な漏れ電流試験機に日置電機(HIOKI)の3156やST5540がありましたが廃止となっており、
現在はテクシオのGLC-10000などがあります。

接地漏れ電流測定の具体例として、TDKラムダ製スイッチング電源の漏れ電流特性を示します。
AC100V入力時の漏れ電流が50Hzで0.08mA、60Hzで0.1mAとなっており、
先程の漏れ電流の式(I=2πfCV)の通り、周波数や入力電圧が高いほど漏れ電流が増えています。

スイッチング電源の漏れ電流特性

ワーストケースとなるAC264V 60Hzでも0.3mAなので、
安全規格(IEC62368-1)における交流1kHz未満の限度値0.5mA以下をクリアしています。