この記事でわかること
・各シリーズ(HC等)の特徴と選び方
・TTL、CMOSロジックICの違い
・3.3V系と5V系ロジックICを接続する方法
74シリーズと呼ばれるロジックICは、
74HCや74LVなど、沢山の種類があるので、
どれを選べば良いか迷う所です。
本記事では、2022年時点で生産中の製品に限定し、
各シリーズの特徴と選び方について解説します。
また、3.3V系ICと5V系ICを接続(電圧変換)する方法についても説明します。
74シリーズの型名表記
74シリーズの型名は、どのメーカーでも基本的に以下の形式となっています。
メーカー名
SN:テキサス・インスツルメンツ(以下、TI)
TC:東芝
など
<メーカーについて>
様々なメーカーがロジックICを製造していますが、
基本的にはテキサス・インスツルメンツ(TI)がおすすめです。
ロジックICの元祖と言える企業で、種類も豊富に取り揃えています。
また、このメーカーの製品は生産中止になりにくいです。
二番目は東芝です。
取り扱っている種類でTIと互角に渡り合える所はここしかありません。
データシートも日本語版があるので、一押しにしたい所ですが、
生産中止の可能性が高いのがネックです。
本記事では、これ以降、TIと東芝の製品について解説します。
74シリーズ
ここに54が入る製品もあります。
<54シリーズ>
74シリーズの使用温度範囲が-40~85℃であるのに対し、−55〜125℃と広い製品です。
元々は、軍用規格(Militaryスペック、略してMILスペックと呼ぶ)に対応するためのシリーズでしたが、
自動車向けなど、厳しい環境で使用する民生品に使用されています。
シリーズ名
HCなど「C」がつくもの:CMOS
LSなど「S」がつくもの:TTL
※CやSがつかないシリーズもあります。
機能
どのような論理回路なのかを示します。
例:244(スリーステート・バッファ)など
パッケージ
表記方法はメーカーによって異なります。
東芝の場合、PならDIP、FならSOPパッケージと決まっています。
梱包形態
ステックやリール等の梱包形態によって区別してます。
データシートには記載されていない場合が多く、
メーカーによって定義は様々です。
74シリーズ一覧(CMOS版)
主なCMOSロジックICは以下の通りです。
基本的にシリーズ名にCMOSの「C」がついています。
※動作周波数は、代表製品の伝搬遅延時間(最大値)から算出しています。
動作周波数 ≒ 1/(tpLH + tpHL)
tpLH,tpHL (伝搬遅延時間):
入力が変化時、出力が変化(L→H/H→L)するまでの時間
代表製品:機能番号244(バッファ)の製品(74HC244など)
・ハイスピード系(HC,HCT)
74シリーズにおいて標準的なスペックを持ちます。
HC(high speed CMOS)
電源電圧:3.3V、5V
動作周波数:17MHz (TI) /22MHz (東芝)
出力電流:6mA
消費電流:40uA (TI)/80uA (東芝)
CMOSの74シリーズで最も古いですが、
現在でも5V系ロジックで一般的に使用され、3.3Vでも動作可能です。
高速応答の必要性が無ければ、おすすめのシリーズです。
HCT(high speed CMOS TTL compatible)
電源電圧:5V
動作周波数:14MHz (TI) /16MHz (東芝)
出力電流:6mA
消費電流:40uA (TI)/40uA (東芝)
HCシリーズの入力をTTLレベルにしたタイプです。
但し、3.3Vでは動作せず、動作速度も若干低下します。
このHCT以外でも、シリーズ名の末尾に「T」がつくのはTTLレベル入力対応になります。
<TTLレベル入力>
TTLの出力をCMOSに入力する場合、
5V系CMOSでは、入力H/Lレベルが3.5V/1.5Vに対し、
TTLの出力H/Lレベルが2.4V/0.4Vなので、
Hレベル出力電圧が低くて、CMOSでHと認識できません。
TTL入力対応タイプならば、入力H/LレベルがTTLレベルの2.0V/0.8Vなので、
TTLからのH/L信号を正しく認識できます。
また、3V系CMOSの出力H/Lレベルが2.2V/0.55Vなので、
3V系信号も認識できます。
TTLを使用することは少ないですが、
3V系信号を5V系に変換することができるので、おすすめです。
回路例(HCT244)
5V電源で動作していますが、
3.3V系マイコンからの3.3V論理レベル信号を入力して、
5V論理レベル信号に変換して、5V系外部機器に出力しています。
出力をプルアップしているのは、電源投入時にHCT244から信号が出力されるまで
外部機器への論理レベルをHに固定するためと、出力電圧及び電流をUPさせるためです。
プルアップの効果については、以下の記事で解説しています。
・アドバンスト系(AC,ACT)
HCより高速(50MHz以上)で、出力電流が24 mAと大きいタイプです。
高輝度LED等の大きな電流を必要とする負荷に接続する場合は適していますが、
一般的なICとの接続では、逆に電流が大き過ぎるため、
出力の立上りでオーバーシュートが発生し、ノイズが大きくなります。
このため、同等の高速性を持つが、出力電流が小さく、ノイズが小さい、
AHCやVHC等のアドバンスド(ベリー)ハイスピード系を使用する方が使いやすいです。
AC(advanced CMOS)
電源電圧:3.3V、5V
動作周波数:67MHz(TI) /59MHz(東芝)
出力電流:24mA
消費電流:40uA(TI)/80uA(東芝)
ACT(advanced CMOS TTL compatible)
電源電圧:5V
動作周波数50MHz(TI) /56MHz(東芝)
出力電流:24mA
消費電流:40uA(TI)/80uA(東芝)
ACシリーズの入力をTTLレベルにしたタイプです。
HCTと同様、3.3V論理レベル信号を入力できます。
但し、3.3Vでは動作せず、動作速度も若干低下します。
・アドバンスド(ベリー)ハイスピード系
(AHC/VHC,AHCT/VHCT)
アドバンスト系と同等の高速性能を持ちながら、
出力電流を抑えたことで、低ノイズ性能を有しています。
高速動作が必要な回路で、よく利用されるおすすめのシリーズです。
AHC(advanced high speed CMOS) TI
VHC(Very high speed CMOS) 東芝
電源電圧:3.3V、5V
動作周波数:59MHz
出力電流:8mA
消費電流:40uA(TI)/40uA(東芝)
このシリーズは、入力トレラント機能があります。
<入力トレラント機能>
トレラントとは「耐える」という意味で、以下の2点に耐えられる機能です。
・入力端子に電源電圧Vccより高い電圧を印加できる(Vin>Vcc)
・ICの電源OFF時に入力端子に電圧を印加できる
この機能があると、電源電圧が3.3Vでも、5V信号が入力可能です。
従って、5V信号を3.3V信号に変換できます。
使用するICに入力トレラントがあるかどうかは、
データシートにある入力電圧Vinの範囲で判別できます。
・Vin=0~Vcc → 入力トレラント無し
電源電圧Vccより高い電圧は入力不可です。
これは、Vcc=5Vなら5V信号を入力できるが、
Vcc=3.3Vなら5V信号を入力できないという意味です。
・Vin=0~5.5V → 入力トレラント有り
電源電圧Vccに関係なく5V信号を入力できます。
AHCT(advanced high speed CMOS TTL compatible) TI
VHCT(Very high speed CMOS TTL compatible) 東芝
電源電圧:5V
動作周波数:53MHz
出力電流:8mA
消費電流:40uA(TI)/40uA(東芝)
AHC/VHCシリーズの入力をTTLレベルにしたタイプです。
HCTと同様、3.3Vロジック信号を認識できます。
但し、3.3Vでは動作せず、動作速度も若干低下します。
VHCTシリーズは、入力トレラント機能に加え、出力トレラント機能もあります。
(AHCTは出力トレラントは無し)
<出力トレラント機能>
入力トレラントと同様に、以下の2点に耐えられる機能です。
・出力がハイ・インピーダンス時、Vcc=3.3Vでも出力端子に5.5Vまで印加できる
(スリーステート出力がある製品のみ)
・ICの電源OFF(Vcc=0V)時に出力端子に電圧を印加できる
ハイ・インピーダンスとは、出力がHでもLでもなく、
出力が遮断された状態のことです。
このように出力が3つの状態になるものをスリーステート出力といいます。
74VHCT244はスリーステート出力バッファであり、
イネーブル信号GがHならば出力が遮断され、ハイ・インピーダンスになります。
(ハイ・インピーダンスとは高抵抗、つまり、つながってない状態と同じという意味です)
これは、複数ICの出力が共通の信号線につながっている場合、
お互いの出力がぶつかるのを防ぐため、自分が出力する時だけ信号線に接続し、
それ以外は出力を遮断するのに使用します。
このハイ・インピーダンス状態では、出力端子に別のICからの出力電圧が印加されます。
出力トレラント機能があれば、
印加電圧がVccより高くても(ICの電源がOFFでも)耐える事ができます。
使用するICに出力トレラントがあるかどうかは、
データシートの出力電圧Voutの範囲で判別できます。
・Vout=0~Vcc → 出力トレラントなし
電源電圧Vccより高い電圧は印加不可です。
これはVcc=5Vなら5V電圧を印加できますが、
Vcc=3.3Vなら5V電圧を印加できないという意味です。
・Vout=0~5.5V → 出力トレラントあり
電源電圧Vccに関係なく5V電圧を印加できます。
但し、H/L出力時は対象外(Vcc以内)となります。
・ローボルテージ系
(LV,LVC,ALVCなど)
3.3V以下で動作するシリーズです。(LVは5Vでも動作OK)
HCやVHCシリーズ等でも3.3Vで動作できますが、動作周波数が遅くなります。
(VHCの場合、5V時は59MHzですが、3.3Vだと37MHzに低下します)
ここにあるシリーズは3.3Vでも動作周波数が高い製品があります。
(LVC:85MHz、ALVC:179MHz)
LV (Low Voltage) TI
(東芝はLVXが該当しますが、生産終了予定)
電源電圧:2.5V、3.3V、5V
動作周波数(3.3V時):37MHz
出力電流:16mA
消費電流:20uA
入出力共にトレラント機能があるなので、
3.3V電源動作時でも5V系ICからの信号を入力でき、
ハイ・インピーダンス時は出力端子に5Vを印加できます。
このように、
5V論理レベル信号を3.3V論理レベル信号に変換することができるので、おすすめです。
回路例(LV244)
3.3V電源で動作させていますが、
5V系外部機器からの5V論理レベル信号を入力して、
3.3V論理レベル信号に変換して、3.3V系マイコンに出力しています。
入力をプルアップしているのは、外部機器が接続されていない時に
LV244への論理レベルが不安定だと誤動作や故障の恐れがあるため、Hに固定するためです。
また、抵抗とコンデンサでローパスフィルタを構成することで、
高周波ノイズを除去しています。
LVC(Low Voltage CMOS) TI
LCX (Low voltage Cmos) 東芝
電源電圧:1.8V、2.5V、3.3V
動作周波数(3.3V時): 85MHz(TI)/77MHz(東芝)
出力電流:24mA
消費電流:40uA(TI)/10uA(東芝)
LVシリーズより高速で、出力電流も大きくなっています。
入出力トレラント機能ありで、5V論理レベル信号を3.3V論理レベルに変換することができます。
回路例(LVC4245)
このICは双方向バッファで、DIR信号により
入力と出力を切り替えることができます。
つまり、5V→3.3V、3.3V→5V論理レベルに変換できるので、
バスラインでの3.3Vー5V変換に使用されます。
ALVC(advanced LVC) TI
VCX(Very Low voltage Cmos) 東芝
電源電圧:2.5V、3.3V(VCXは1.5Vも可)
動作周波数(3.3V時):179MHz (TI)/143MHz (東芝)
出力電流:24mA
消費電流:10uA (TI)/20uA (東芝)
74シリーズの中では最高速の部類になります。
入力トレラント機能を持ちますが、最大電圧が4.6Vなので、
5V信号は接続できません。
(LCXは出力トレラント機能もあり)
74シリーズ一覧(TTL版)
TTLは殆どがCMOSに置き換わってしまい、
扱っているメーカーもCMOSに比べ非常に少ないです。
2022年時点でTIで販売中の製品を紹介します。
基本的にシリーズ名にショットキーの「S」がついています。
無印(standard)
74シリーズ最初の製品ですが、未だに販売しています。
電源電圧:4.75~5.25V
動作周波数:23MHz
出力電流:-0.8/+16mA(※1)
消費電流:60mA
※無印は244がないので、代わりにSN7414のスペックを記載します。
※1:マイナス符号はICから出る方向(ソース電流)で、
プラス符号はICに入る方向(シンク電流)です。
S(schottky-diode-clamped)
ショットキー・ダイオードを用いて、
無印よりも高速化していますが、消費電力が大きいです。
電源電圧:4.75~5.25V
動作周波数:56MHz
出力電流:-15/+64mA
消費電流:180mA
LS(Low power Schottky)
Sシリーズの低消費電力版です。
TTLのシリーズ中、よく使われる標準的なグレードです。
CMOSと比較すると、HC(17MHz)より早いが、AC(67MHz)より遅いです。
電源電圧:4.75~5.25V
動作周波数:28MHz
出力電流:-15/+24mA
消費電流:54mA
ALS(Advanced Low-power Schottky)
LSの改良版(高速&低消費電力)です。それでもHC以外のCMOSより低速です。
電源電圧:4.5~5.5V
動作周波数:50MHz
出力電流:-15/+24mA
消費電流:27mA
F(fast)
ALSより高速で、CMOSのAC(59MHz)より早いですが、消費電力が大きいです。
電源電圧:4.5~5.5V
動作周波数:77MHz
出力電流:-15/+64mA
消費電力:90mA
AS(Advanced Schottky)
Fと同程度の速度で、低消費電力になっています。
TTLシリーズとしては最高性能クラスになり、5V系CMOSより早いです。
電源電圧:4.5~5.5V
動作周波数:80MHz
出力電流:-15/+64mA
消費電流:54mA
TTL、CMOSロジックICの違い
TTLとCMOSと比較した場合、以下の点があげられます。
<TTLは消費電力が大きい>
TTLはCMOSに比べ、消費電流が桁違いに大きいです。
消費電流を見ると、TTLは低消費電力タイプのALSでも27mAであるのに対し、
CMOSは5V系なら80uA以下で、300倍以上違います。
このため、TTLは電池やバッテリーで動作する装置には向きません。
また、CMOSは5V系でも3.3Vで動作できますが、
(HCT等のTTL入力タイプを除く)
TTLは5Vでしか動作できません。
<速度差は殆どない>
速度については、TTLの方が早いと言われますが、
現在は、そうでもないです。
TTLで代表的なLSシリーズの動作速度は28MHzです。
CMOSと比較すると、HC(17MHz)より早いが、AC(67MHz)より遅いです。
このため、CMOSの方が早い製品が多いです。
<TTLは接続台数に制限がある>
CMOSは入力電流を殆ど必要としない(数uAレベル)ので、
TTL→CMOS、CMOS→CMOSどちらの場合でも、
10台くらいまでなら問題なく接続できます。
しかし、TTLは入力電流が大きい(LSシリーズで0.2mA)ため、
接続台数が制限されます。
この接続できる台数をファンアウトと言います。
TTL→TTLの場合は、
ファンアウト=出力電流Iout/入力電流Iin
になります。
CMOS→TTLの場合、CMOSは出力電流が小さいので、
基本的には1台しか接続できないです。
<TTLは出力電流が大きい>
以上の理由から、TTLは殆どCMOSに置き換わってしまいましたが、
74LS06等のオープンコレクタ出力タイプ(※2)については、まだ使われています。
理由は、出力電流が40mAと大きいため、LEDやリレー等を動作させるのに便利だからです。
CMOSの場合はオープンドレイン出力(※2)になりますが、
出力電流がオープンコレクタよりも小さいです。
(最近は大電流化してきたので、差はなくなってきました)
※2:オープンコレクタとオープンドレイン
オープンコレクタは出力がトランジスタのコレクタ、
オープンドレインは出力がFETのドレインにつながっています。
どちらも、出力には電源が供給されていない(オープン)なので、
このままでは電圧を出力できません。
そのため、出力にプルアップ抵抗を介して電源を供給することで、
出力がOFF時はH電圧、ON時はL電圧を出力できます。
オープンコレクタの詳細は下記記事を参照下さい。
74LS06を使った回路例を示します。
3.3V系CPUから高輝度LEDに接続した場合です。
高輝度LEDに必要な電流20mAもオープンコレクタなら制御できます。
また、5V論理レベル信号を3.3V論理レベルに変換することもできます。
ロジックICの接続と電圧変換
ロジックICの論理レベルは以下になります。
※出力電圧は出力電流の大きさによって変わります。
ここではデータシートの最大出力電流時における出力電圧を記します。
<TTL>
入力 H:2.0V以上 L:0.8V以下
出力 H:2.4V以上 L:0.4V以下
<5V系CMOS>
入力 H:3.5V以上 L:1.5V以下
出力 H:3.8V以上 L:0.44V以下
<3V系 CMOS>
入力 H:2.0V以上 L:0.8V以下
出力 H:2.2V以上 L:0.55V以下
3V系CMOSの入力レベルはTTLと同じなので、
5V系ICでも74HCTのように末尾にTがつくTTLレベル入力タイプなら
3V系ICからの信号を入力できます。
<接続方法>
・3V系IC→5V系ICへの接続
5V系ICをTTLレベル入力タイプにします。
(HCT、ACT、AHCT/VHCT)
・5V系IC→3V系ICへの接続
3V系ICを入力トレラント機能ありタイプにします。
(LV、LVC/LCX)
AHC(VHC)も入力トレラントがあるので、
3.3V電源で動作させて3V系ICとして使うこともできます。