タイムラグ型、速断型とは? ヒューズの種類と選び方 | アナデジ太郎の回路設計

タイムラグ型、速断型とは? ヒューズの種類と選び方

ヒューズ接続例 回路設計

この記事でわかること

・ヒューズの種類と使い分け方
・回路のどこにヒューズをつけるか
・電流測定を基にした定格値の選定方法

回路内の部品が故障して、大電流が流れた場合、
ヒューズが溶断し、回路を遮断することで、破損や発煙・発火を防止します。

但し、ヒューズ選定が不適切だと通常動作で切れたり、
異常時の遮断動作が遅れ、回路への被害が拡大する恐れがあります。

本記事では、異常時は速やかに遮断し、
それ以外は溶断しないヒューズを選定する方法について解説します。

ヒューズの種類

ここでは、外観による分類と、特性による分類、それぞれの場合について説明します。

外観による分類

・管型ヒューズ
 リード無タイプは、基板側に設けたヒューズホルダーに取り付け、
 両端にリードがついたタイプは基板に直接実装します。

管型ヒューズ(リード有とリード無)

 ヒューズ交換が容易なリード無タイプと違い、
 リード付は半田付けされているので取り外し難いですが、
 ヒューズホルダーを設けない分、コストとサイズを節約できます。 

ヒューズホルダ―

 また、ヒューズを設ける回路の特性上、
 ヒューズ溶断の原因が配線ショートや過負荷ではなく、
 回路の内部故障である可能性が高い場合、ヒューズを交換しても復旧せず、
 むしろ、更に被害が拡大する恐れがあるため、リード付きを使用することで、
 容易に交換できないようにすることもあります。

セラミックヒューズとガラスヒューズ

 管型には円筒部分の材質がガラスと、セラミックの2種類があり、
 セラミックの方が遮断容量を大きくできますが、
 ガラス管の様に内部のフィラメントが切れているか目視で確認できません。

・挿入型ヒューズ(マイクロヒューズ)
 リード付きタイプと同様、基板に実装して使用しますが、  
 樹脂カバーで絶縁されており、小型で高密度実装に適しています。
 また、テーピング品もあるので、自動実装が可能です。

マイクロヒューズ

・表面実装型
 セラミックを使用した面実装(SMD)タイプで、主に二次側の低電圧回路で使用されます。

チップヒューズ

特性による分類

ヒューズに流れる電流と切れる(溶断)までの時間の関係を溶断特性と呼び、
その特性の違いから3つに分類されます。

・速断型(ファスト・ブロー)
 過電流が流れると直ぐに溶断するタイプで、
 回路の出力が短絡したり、過負荷状態になった時に、
 回路内のFETやダイオード等を保護するために使用されます。

・タイムラグ型(スロー・ブロー)
 スイッチング電源の入力や、モータ等の誘導性負荷への出力など、
 突入電流で溶断しないようにする必要がある回路に使用します。

 下記は、速断型とタイムラグ型のマイクロヒューズの溶断特性を比較したものです。

速断型とタイムラグ型の溶断特性の違い

 これを見ると、同じ定格1Aのヒューズに3A流れた場合、速断型が0.04sで溶断するのに対し、
 タイムラグ型は0.15sと3倍以上遅くなっているのがわかります。

・普通型(ノーマル・ブロー)
 速断型とタイムラグ型の中間に位置する溶断特性となっており、
 通信機器などの一般的な用途に使用します。

ヒューズの表記については、下記の様になっています。

ヒューズの仕様表記例



ヒューズの規格

一般的な電気回路のヒューズに適用される規格には、大きく分けて3種類あります。
 ・電気用品安全法(日本)
 ・UL/CSA規格(アメリカ/カナダ)
 ・IEC規格(国際規格、主に欧州)

ヒューズに表記されている認証マーク

電気用品安全法

通称、電安法と呼ばれる日本の規格で、認証されたものは
PSE(Product Safety Electrical Appliances & Materials)マークが表記されます。

PSEマーク

この電安法には3つのヒューズ規格があります。
 ・省令1項
  A種:UL規格に準拠
  B種:日本独自の規格
 ・省令2項
  J60127:IEC60127に準拠

A種とB種の違いですが、A種は定格電流の110%、B種は130%まで溶断せず
1時間以内に溶断するのは、A種135%、B種160%となっており、A種の方が低電流で溶断します。

また、J60127が準拠するIEC規格は一般的に定格電流の150%まで溶断しないため、
機器の保護を重視する場合はA種を、動作維持を重視する場合には
B種やJ60127を使用するという選択方法もあります。

UL/CSA規格

UL(Underwriters Laboratories)は米国の規格(UL248)、
CSA(Canadian Standards Association)はカナダの規格(CSA C22.2)で、
認証マークには、UL、CSA両方の認証を受けたC-ULマークもあります。

ULマーク

UL認証にはUL Listed(リステッド)と、UL Recogiized(レコグナイズド)の2種類があり、
認証マークも異なります。

2つの違いですが、リステッドは最終製品に対する認証、
レコグナイズドはリステッド認証された製品に対して使用を認める条件付きの認証です。

IEC規格

IEC60127はヒューズの国際規格で、主に欧州で適用されています。
 ※IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)

CB(Certification Body)制度と呼ばれる相互認証により、
加入国の認証機関により認証されたものは、他の加入国の認証も取得できます。

主な認証マークは以下になります。

VDEマーク、Sマーク、BSIカイトマーク



ヒューズの使い方

様々なタイプのヒューズの使い分けですが、
スイッチング電源の場合を例にして説明します。

※ここで紹介する方法、一般的な例であり、
 従うべき安全規格や製品仕様がある場合は、それに従うこと。

ヒューズ接続例

ACラインにヒューズF1を設ける場合、
入力には非接地側のL(ライブ)と、接地側のN(ニュートラル)があるので、
L側につけるようにします。

これにより、回路内でショート故障が起きた場合、非接地側を遮断することで感電を防止します。

また、一次側のヒューズが切れる場合、
FETのショート故障等、回路部品の故障が原因である可能性が高く、
ヒューズを交換しても復旧せず、むしろ、更に被害が拡大する恐れがあるため、
リード付きを使用することで、容易に交換できないようにしています。

ここで、F1にタイムラグ型を使用するのは、入力コンデンサC1の容量が大きいと、
電源投入時に流れる突入電流が大きくなるので、ヒューズが切れない様にするためです。

二次側に設けるヒューズF2には、リード無タイプを使用し、
回路にヒューズホルダを設けることで交換を容易にしています。

これは、ヒューズが切れる主な原因は、回路故障ではなく、
出力先のショート故障や配線ミス等が多いことから、
ヒューズ交換で正常復帰できる可能性が高いためです。

また、接続先がモータ等の誘導性負荷の場合、
起動時に流れる電流が大きくなるため、タイムラグ型にします。

誘導性負荷を接続しない場合で、
回路内のFETやダイオード保護を優先する時は速断型を使用します。



ヒューズ選定方法

<定格電圧>
ヒューズの定格電圧は回路電圧より高いものを選びますが、
回路電圧がDC(直流)の場合、AC(交流)ヒューズは使用できないので注意します。

ヒューズによっては、ACとDC両方で使用できるものもありますが、
基本的にはDCの方が定格電圧が低くなっています。

電流遮断波形

その理由ですが、ヒューズは溶断するとアーク放電が発生しますが、
ACは周期的に電圧がゼロになるタイミングで放電が消滅するのに対し、
DC電圧はそのままなので、放電はすぐに終了せず、
その分、ヒューズへの負担が増えることから、DC定格電圧は低く設定されています。

<定格電流>
定格電流の選定については、回路の通常動作に影響しないようにするため、
一般的な目安として、定常時に流れる電流(定常電流)が、
ヒューズの定格電流の70%以下になるようにします。

このように定格に対し余裕度を持たせることを、ディレーティングと呼び、
定格ディレーティング係数によって定格値を下げた上で、
流れる電流よりも定格値の大きいヒューズを選定します。

定常ディレーティング係数

また、周囲温度が高いと溶断しやすくなるため、
温度ディレーティング係数により、定格値を更に下げます。

温度ディレーティング係数

カタログにディレーティング係数を提示している場合は、それに従います。

上記をまとめると、定常電流は以下の式を満たす必要があります。
 定常電流 < ヒューズ定格電流 × 定常ディレーティング × 温度ディレーティング ・・・(1)

<突入電流>
電源オン時に流れる突入電流は定常電流よりも大きいため、
ヒューズの定格値を超えて溶断する可能性があります。

しかし、突入電流は非常に短い期間で複雑な波形であることから、
ジュール積分値(I2t)と呼ばれるエネルギー値に換算することで、溶断するか判定します。

カタログに記載されたI2tは、溶断電流値の2乗と溶断時間tを積分したもので、
この値より突入電流のI2tが大きいと、ヒューズが溶断します。

突入電流のI2tは電流波形を測定し、その波形の形状に該当するI2tの計算式から求めます。

ジュール積分値の計算式

また、電源がON/OFFする度に突入電流が繰り返されることで、
ヒューズが劣化して溶断しやすくなるため、
繰返し回数に応じたディレーティング(ラッシュ耐量係数)を持たせます。

ラッシュ耐量係数

上記をまとめると、I2tは以下の式を満たす必要があります。
 ヒューズのI2t > 突入電流のI2t / ラッシュ耐量係数 ・・・(2)



ヒューズ選定例

ここでは、大東通信機製マイクロヒューズBL20を使用した場合で行います。
 BL20 定格電流:2A

定常電流と突入電流の測定は図の様に、オシロスコープに電流プローブを接続して行います。

ヒューズに流れる電流の測定方法

<定常電流の測定>
定常電流については、オシロスコープの計測機能を使用して実効値を求めます。
 定常電流の実効値:0.6A

定常電流の測定

ヒューズカタログより、BLヒューズの各ディレーティング係数は以下の通りです。
 定常ディレーティング係数:0.7
 温度ディレーティング係数:0.92(60℃)

定常電流の条件式(1)より
 ヒューズ定格電流 × 定常ディレーティング × 温度ディレーティング
  = 2A × 0.7 × 0.92 ≒ 1.29A

となり、回路に流れる定常電流(0.6A)よりも十分大きいのでOKとなります。

<突入電流の測定>
AC電圧の場合、電源オンのタイミングによって、突入電流が大きく違ってきます。
ここでは、突入電流が最も大きくなるAC電圧位相90°でONした時のI2tを求めます。

突入電流波形

電流波形が複数ある場合は、各波形のI2tを合計します。

突入電流波形からのI2t計算

①ピーク電流:18A 時間:1.5ms  (三角波)
 三角波の式 I 2 × t/3より、
  I2t =0.486 /3 = 0.162 [A2・s]

②ピーク電流:0.8A 時間:2.4ms  (正弦波)
 正弦波の式 I 2 × t/2より、
  I2t ≒0.002 /2 = 0.001 [A2・s]

 ①+②=0.162 + 0.001 =0.163 [A2・s]

ヒューズカタログより、ラッシュ耐量係数は10万回(104)の場合、約0.4なので、
 0.163/0.4=0.4075[A2・s]

BLヒューズのI2t特性グラフより、
ヒューズのI2tに比べ、突入電流のI2tは十分小さいためOKとなります。

I2t特性グラフ