充電池やスーパーキャパシタを使ったバックアップ電源回路 | アナデジ太郎の回路設計

充電池やスーパーキャパシタを使ったバックアップ電源回路

リチウム充電池によるバックアップ電源回路 回路設計

この記事でわかること

・リチウム充電池の充電方法
・リチウム充電池を用いたバックアップ電源回路
・スーパーキャパシタの特徴と使い方

SRAMやRTCなど、電源OFF時でも機能が停止しないように
リチウム充電池やスーパーキャパシタを使用したバックアップ電源を設ける場合があります。

本記事では、リチウム充電池を充電する際の注意点や、
スーパーキャパシタの使い方を説明すると共に、バックアップ電源回路について解説します。

本記事はバックアップ電源回路を説明することが目的であり、
解説する製品の機能や回路の動作を保証するものではありません。

ここで紹介する方法が適切で無い場合がある為、
使用の際は、デバイスのデータシートを必ず確認の上、
記事にある回路の利用については自己責任でお願いします。

リチウム充電池を用いたバックアップ電源

ここで使用するパナソニック製のVL系コイン型リチウム充電池
バックアップ用充電池として発売から30年以上のロングセーラ品です。

VL系コイン型リチウム充電池

公称電圧(電池を使用する際の電圧)は3Vで、
型名がVL2330の場合、公称容量50mAh、連続標準負荷は0.1mAです。

型名の23が直径(23mm)、30が高さ(3.0mm)を示し、
公称容量は、放電電流×定電流連続放電時間で定義され、
連続標準負荷は、公称容量を放電させる際の標準的な負荷電流です。

VL2330では、負荷電流が0.1mAの場合、
放電時間は50mAh/0.1mA=500時間(約20日間)となります。

リアルタイムクロック(RTC ※1)のバックアップ電源に使用した場合、
セイコーエプソン製RTC-8564の消費電流が最大800nAなので、
 50mAh/800nA=62,500h≒2604日≒7年
と非常に長いですが、これは常温(20℃)環境を前提としており、
高温ではRTCの消費電流は増加します。

また、電池自体の自己放電や温度変化による(低温)電圧降下もあるため、
実際はこの時間よりも短くなります。

※1:マイコンに接続して使う時計ICで、電源OFFでも動作を維持するように、バックアップ電源に接続して使用します。

リチウム充電池の充電方法

リチウム充電池を充電する場合は指定された充電電圧で行う必要があり
この範囲を超えると充電池の電気特性が劣化する恐れがあります。

リチウムイオン充電池によるバックアップ電源回路

VL系の充電電圧は3.4±0.15Vとなっていることから、
ここでは、シャントレギュレータTL431を用いた定電圧回路を用いて、
5V電源が多少変動しても、充電電圧を上記範囲内に維持します。

具体的には、TL431はリファレンス(R)電圧が2.495Vを維持するように
KーA間に流れる電流を調整するので、TL431のカソード(K)電圧は3.429Vで一定となります。

シャントレギュレータについては下記記事で解説しています。

D1は5V電源OFF時に充電池からの逆流を防ぐために設けており、
5V電源ON時における定電圧回路からの電圧降下を小さくするため
順方向電圧VFが低く、逆電流の小さいショットキーダイオードを使用します。

ショットキーダイオードのVF-IF特性

ここではパナソニック技術資料「VL系電池の充電について」において、
充電回路の使用例にあるローム製RB751VM-40(30V 30mA)を用いた場合、
周囲温度25℃環境において、VFは2mAで0.34V程度です。

ショットキーダイオードについては下記記事で解説しています。

また、充電電流も上限が指定されており、
VL2330では2.0mA以下にするように指示されているため、
D1と充電池間に電流制限抵抗を設けます。

リチウム充電池の充電カーブ

電流制限抵抗の決め方ですが、充電電流が最も大きくなるのは、
充電池が最も低い電圧となる終止電圧(※2)の時で、
VL系電池の充電カーブよりVL2330の終止電圧を2.5Vとすると、
電流制限抵抗は
 R=(3.429Vー0.34Vー2.5V)/2mA
 =294.5Ω

となり、300Ωを選定します。
 ※2:放電終了時の電圧で、カットオフ電圧とも呼ぶ。

このバックアップ電源回路ですが、
通常(電源供給)時は3.3V電源よりD3のVF分だけ電圧降下した電圧が出力され、
バックアップ(電源停止)時は充電池の3.0VよりD2のVF分だけ電圧降下した電圧が出力されます。

リチウム充電池の充電時間と充電回数について

必要な充電時間の概算値は以下で求めることができます。
 充電時間(h)=公称容量(mAh)/充電電流(mA)

VL2330の公称容量は50mAhなので、充電電流が2mAとしたら
 50mAh/2mA=25h
となりますが、充電カーブを見てわかる様に、充電が進むにつれて充電池の電圧が上昇し、
定電圧回路と充電池間の電位差が小さくなることで、
充電電流は減少するため、充電時間は概算値より長くなります。

充電池の充電できる回数(寿命)については、
VL2330のデータシートに充放電サイクル特性が示されています。

リチウム充電池の充放電サイクル特性

放電深度(Depth of Discharge:DOD [単位%])は、
充電池の総容量のうち、使用(放電)した割合のことで、
充放電サイクル数は充電と放電を1セット1回として、充電池が性能を維持できる回数になります。

たくさん放電するほど、化学反応がより多く発生して寿命は短くなるため、
DODが深い(%が大きい)ほど、充放電サイクル数は減少します。

上図の特性グラフを見ると、あまり放電しないうちに充電するDOD10%では1000回ですが、
使いきってから充電するDOD100%だと40回まで減ってしまいます。

また、リチウム充電池はメモリ効果(※3)が無いことから、
使用容量が少ないうちに充電しても性能に影響することなく、

充電池の寿命を延ばすことができます。

※3:ニッカド電池やニッケル水素電池に見られる現象で、充電池の残容量が十分ある状態で充電を繰り返すと、
   使用中に充電を繰り返えした電圧付近まで低下すると、その後は急激に低下してしまう



スーパーキャパシタの特徴と使い方

スーパーキャパシタは電極と電解液の異なる2つの相が接触することで
電位差が生じる電気二重層という現象を利用して電荷を蓄えるコンデンサで、
電気二重層コンデンサとも呼ばれます。

静電容量が大きい電解コンデンサでもuFレベルなのに対し、
スーパーキャパシタはFレベルと非常に大きいですが、
ESR(※4)が数十Ω程度と大きいため、リップル電流による電圧降下や
発熱が大きくなることから、電圧平滑用には適しませんが、
充電電流が抑制されるため、電流制限抵抗なしでも充電することが可能です。(※5)

※4:等価直列抵抗:コンデンサの抵抗成分
※5:電源の電流容量が小さい場合や、充電電流の急激な変動による周辺回路への影響が
   考えられる場合には電流制限抵抗を設けます。

また、最大使用電圧以下であれば、リチウム充電池のような充電電圧の制約が無く、
充放電回数についても無制限であることから、定期的な交換は不要であり、
数十秒単位の急速充電が可能です。

放電時間については負荷電流が数uA程度で数週間のメモリバックアップ用と、
10mA以上で1時間以下の短時間バックアップ用の2タイプがあります。

ここで紹介するトーキン製スーパーキャパシタFYシリーズは
メモリバックアップ用であり、使用温度範囲はVL系リチウム電池の
―20~+60℃に対し、―25~+70℃と広い温度範囲で使用できます。

バックアップ時の持続時間はリチウム充電池にかないませんが、
充電用の定電圧回路や電流制限抵抗が不要という利点があります。

スーパーキャパシタを用いたRTCのバックアップ電源

使用するRTCはセイコーエプソン製RTC-8564で、
年月日や時刻情報などをI2C通信によりマイコンに送信します。

スーパーキャパシタを用いたRTCバックアップ電源接続

5V電源遮断時に、RTCが動作を継続できるように
充電されたスーパーキャパシタから電源を供給します。

ここで使用するトーキン製FYD0H105ZFの最大使用電圧は5.5V、
公称静電容量が1Fとなっています。 

バックアップ(放電)時間は下記式で計算できます。
 放電時間T[s]=C×(V0ーV1)/I
            C:静電容量[F]
            V0:放電開始時の電圧[V]
            V1:放電終了時の電圧[V]
            I:放電電流[A]

RTC-8564の消費電流は最大800nA、最低動作電圧1Vなので、
充電電圧をダイオードのVFを考慮して4.5Vとし、
電源電圧が1.5Vまで低下するまでの放電時間は、
 T=C × (V0ーV1)/I
 =1[F] × (4.5[V]ー1.5[V])/800×10-9[A]
 ≒0.00375×10-9A[s]
 =3,750,000[s]=1,041[h]≒43日

但し、ここでは電流制限抵抗Rを0Ωとした場合であり、
自己放電による電圧降下などの影響もあるため、実際は計算値よりも短くなります。

スーパーキャパシタの自己放電特性

電流制限抵抗については電源回路の電流容量に制限がある場合に設けますが、
スーパーキャパシタ自体としては0Ωでも問題ありません。